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知的財産とXBRL(eXtensible Business Reporting Language)


新日本有限責任監査法人
三代 まり子氏

はじめに
 インターネットの急速な普及によって,情報の大量高速通信が可能となり,情報発信側も情報利用者側も情報をもとに即時的,連鎖的にリアクションを起こす時代となっています。このような情報化社会においては,企業の発信する情報が投資家をはじめ,企業を取り巻くすべてのステークホルダーにとってアクセス可能なだけでなく,不特定多数の情報利用者の反応が企業の価値を左右する大きな要因となってきています。
情報の送り手と受け手との間にあるタイムラグが従前より格段に短くなっている今,企業は必要とされている情報を適時に発信し,すばやく反応を引き出すことによって外部のステークホルダーを惹きつけることが企業価値向上の鍵となっています。
 XBRL(注1)とは,コンピュータ言語の1つですが,今日の情報化社会において非常に画期的なツールとして注目を浴びています。米国証券取引委員会(SEC)ではXBRLをシステムの使い易さを表現するために“インタラクティブ・データ(相互作用的なデータ)”と呼んでいます。
 本稿では,このXBRLというツールがどのように知的財産と関係してくるのか,そして世界的なXBRLの動向について触れるとともに,今後の知的財産と情報開示のあり方について説明します。なお,本稿の意見に関する部分については,筆者の私見であることを予めご了承ください。

信頼性の高い情報とは
 情報のXBRL化とは,企業の情報を作成・流通・利用できるように標準化されたタクソノミ(taxonomy)を使ってタグ付けすることを指します。また,情報のXBRL化は,今ではITの領域を越え,経営者をはじめ企業活動に従事するすべての人,また,この情報化社会に属する多くの人が「情報とは何か」について再度自問する「きっかけ」を与えてくれます。
 企業の情報は様々な媒体を通して外部へ発信されますが,より信頼性の高い監査済の企業情報が有効に活用されないまま今日に至っています。それは,制度開示において提出されてきた企業情報は整理されないまま膨大化し,情報間の関連性もないため,情報利用者にとって使い勝手のよいものではないからです。その結果,投資家はすでにデータが加工され,使い勝手がよくなっている情報を活用する傾向が強くなっていました。

表1

XBRL化には,情報利用者が信頼性の高い有価証券報告書上のデータを有効に活用しやすい状況を作り出す可能性があります。

企業の情報:財務情報と非財務情報
 企業の価値を形成する情報には財務情報と非財務情報があります。情報の膨大化は財務情報に限ったことではなく,むしろ,財務情報における明確な基準のない非財務情報においてより顕著であると言えます。XBRL化が,財務情報だけでなく将来的に非財務情報にも適用することができれば,情報利用者にとっては,使い勝手がよく,これまでに費やしてきた情報の収集のための時間を分析に充てることができ,時間を効率的に配分することが可能になります。
 ただし,有価証券報告書には財務及び非財務情報の両方が含まれているものの,現時点では財務情報のみが法定監査の対象となっています。従って,ノウハウや技術など会計上の資産の定義に合致しない知的財産の多くは,財務情報として表現することが困難であるため法定監査の対象外です。
 これまでは,財務情報を中心とする企業価値評価が行われてきましたが,企業の収益の主要な源泉として知的財産の役割が年々増している今日においては,投資家をはじめとするステークホルダーにその価値を理解してもらうために,非財務情報の提供が重要になってきており,非財務情報に対する監査をどのように行うかについても検討が行われると予想されます。非財務情報に対する監査とXBRL化の環境が整備されることによって,信頼性が高まるとともに情報の作成・流通・利用が促進されることが期待できます。

非財務情報のXBRL化に向けて
 知的財産などを含む企業の非財務情報のXBRL化においては,まず,グローバル・レベルでの共通用語と文法の整備が必要となります。「知的資本/知的資産 ワールド・イニシアティブ(以下,WICI(注2)と表す)」では,共通の認識のもとでの環境整備が進められています(注3)。現時点における参加組織は,日米欧を中心に,経済産業省,早稲田大学,EBRC(注4)(米国),フェラーラ大学(欧州),ヨーロッパ財務証券アナリスト協会(注5)(欧州)となっています。WICIの活動の1つに,非財務情報を整理する枠組みとしてタクソノミ開発があります。タクソノミの理解は,各国共通の基準を決めるうえで必要となります。タクソノミ自体を辞書で引くと,「分類法」と訳されています。会計基準を例にとると,資産の部,負債の部,純資産の部は貸借対照表における大分類であり,現金や売掛金,買掛金といった各大分類にぶら下がる各勘定もタクソノミの構成要素の1つです。
 企業の非財務情報は,まだこのような分類をする方法が用意されていないため,企業もどこにどのような情報を分類し開示すればよいのか判断が困難な状況にあると言えます。非財務情報のタクソノミの整備は非財務情報開示の標準化への第1歩となります。
 情報がXBRLによって電子化されることは,単に情報開示の効率性や適時性を向上するためだけではなく,企業の実体がより可視化されることによってマネジメントが知的財産を活かした経営に取り組むきっかけとなると期待されています。

XBRL化と知的財産の活用
 企業の知的財産は,「知的財産戦略大綱」にもある通り,「創造・保護・活用」のサイクルによってその価値を最大化することが可能であると考えられます。
図1
  これまで,多くの日本企業においては価値ある知的財産が創造され,また,適切な保護に対する認識も高まってきていますが,開示を通じて外部のステークホルダーに理解してもらわなければ,これまでに創造し,保護された知的財産を最大限に活かすことができません。
 先に挙げた非財務情報の開示に関するXBRL化を進めることにより,外部のステークホルダーを「開示」を通してひきつけ,社内の知的財産をより活用することができます。
 また,この知的財産サイクルを構成している,「創造・保護・活用」はXBRLの動きの中でも非常に重要な要素として考えることができます。XBRLには“XBRLインターナショナル”という非営利団体組織があり,2008年10月15日,16日には第18回XBRL国際大会が米ワシントンD.C.で開かれましたが,今回の会議ではデータをどう作るか(≒創造)という従来までの議論とは異なり,データをどう使うか(≒活用)という点へ議論がシフトしてきています。また,日本においてはXBRLによって提出される企業情報の監査による保証(≒保護)は非財務情報だけでなく,財務情報もその対象とはなっておらず,今後はこの点についても検討と早期の対応が求められてきます。創造・保護・活用がそろって初めて企業開示情報の価値が最大化されます。

今後の知的財産と情報開示においてはKPIが重要
 将来的には,非財務情報のXBRLタクソノミの作成に付随して,企業の属している業界の共通指標を設定する必要があるでしょう。これにより,企業の経営に役立てることができるだけでなく業界間での比較可能性が担保されます。また,これらの指標に加え,企業の独自性が出せる指標を各社が独自に設定することによって,他社との差別化が図れます。米国においても,SEC(米国証券取引委員会)から,従来の財務を中心とした報告書(Financial Reporting)の範囲を超えて,企業の全体像を把握するためのビジネスレポーティングへ開示を拡大するために,KPI(注6)などを用いた,財務及び非財務の業績指標の任意開示についての解釈指針を見直し,拡張することを検討すべきであるとの姿勢が示されています(注7)
 このような非財務情報の開示に関する世界的な動きもあり,企業は,社内において企業目的の達成に必要な知的資財産の管理に関するKPIを設定し,それによる管理を開始する必要がますます高まってくると考えられます。過去・現在・未来予測という時間軸上の流れの中での比較可能性,また他の企業との比較可能性といった縦と横の比較が可能になれば情報として有用性が増してくるだけでなく,情報利用者にとっては不可欠なものになると期待されています。各国共通の認識のもと,企業の知的財産の開示が可能になれば,国際的に認められる開示の水準となり他国の投資家にとって共通の理解が促され有益であるだけでなく,これが企業の持続的成長に不可欠な要素が明確になり経営に役立てることができるようになります。

最後に〜「情報とは何か」
 SECの“21世紀情報開示イニシアチブ(SEC’s 21st Century Disclosure Initiative)”の委員長であるWilliam Lutz氏は,「情報とは不確実性を減少させるものである」と述べています。そして,データと情報の違いについては,「データの内,利用者にとって有益なものが情報である」とも述べています。これまでのデータの蓄積という時代から,情報の意味を問う時代へとシフトしていきます。知的財産などの非財務情報に関するXBRL化の動きは,まだ初期の段階にあるといえますが,今後も国際的な動向に注目し,企業の知的財産の活用へのツールとして認識しておく必要があるでしょう。


(注1)XBRLとは
eXtensible Business Reporting Languageの略。各種財務報告用の情報を作成・流通・利用できるように標準化されたXMLベースの言語

(注2)WICIとは
World Intellectual Capital/Assets Initiative ウェブサイト:http//www.worldici.com

(注3)
花堂靖仁「Intangiblesの情報化とコミュニケーションの展開に向けて」人的資本についての論考 ARI研究所 2008年2月 35-36頁

(注4)EBRCとは
改善された企業コンソーシアム(Enhanced Business Reporting Consortium: EBRC) 改善された企業コンソーシアム(Enhanced Business Reporting Consortium: EBRC):EBRCの目標は投資家,債務者,規制当局者,その他主要ステークホルダーのコンソーシアムを作って,意思決定のための透明性の高い情報を提供すること。2005年に創設,メンバーはAICPA,マイクロソフト,グラント・ソーントン,PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の4つである。

(注5)ヨーロッパ財務証券アナリスト協会とは
EFFAS:European Federation of Financial Analyst Societies

(注6)KPIとは
Key Performance Indicator 先行指標となるバリュードライバー

(注7)
SEC“Final report of the advisory committee on improvements to financial reporting to the United States Securities and Exchange Commission” August 2008 116-118頁




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