CIPOフォーラム ホームへ 特集 企業戦略 イベント 提言


知的資産の情報開示


新日本有限責任監査法人
三代 まり子氏


〜 日独知的資産経営サミットのご報告より 〜

 企業価値の大半をしめる知的資産。この概念は徐々に定着してきていますが,今回は「開示」という側面からの知的資産経営を考えてみたいと思います。日本およびドイツにおける政策面での取り組み,また,企業にとってのメリット・展望を説明します。
※本稿における意見に関する部分は,筆者の私見であることをあらかじめご承知ください。

【日独知的資産経営ボーデン湖サミット】
サミットでの様子 2007年9月25日,ドイツ・ラーベンズブルクにおいて日独知的資産経営サミットが開催され,両国における知的資産経営についての取り組みや意見交換が行われました。参加者は両国の中小企業を中心に,経済産業省(日本),経済技術省(独),民間の知的資本に関する報告書の支援や評価を行うコンサルティング会社,また,商工会議所,研究機関,大学及び監査法人等であり幅広い分野からの関係者によって議論が展開されました。
 従来から,日本とドイツは多くの共通点があるといわれています。まず,両国は国土の広さ,気候等が似ているといわれています。また,日本の会社数の99%を占めるのは中小企業ですが,同じくドイツも企業数の大多数を中小企業が占めています。さらに,知的資産/知的資本に注目した経営と開示の源流の1つとして,日独双方ともスカンディア社を指導したレイフ・エドビンソン氏を位置づけている点でも共通します。とりわけ,中小企業向け知的資本の開示スキームと開示ガイドラインを整備し,比較的早期に取り組んできたドイツの先行事例を学び活かしていくことは日本にとっても有意義であり,またドイツにおいても両国の共通点や相違点から改善点を見いだすことが可能であると考えられます。

サミットでの様子 このような環境の共通点をふまえた上で,知的資産経営報告書に対する取り組みにも共通点があります。まず,発行企業数です。具体的には,ドイツの発行企業数が約100社であるのに対し,日本は約50社であり,遜色ないレベルであると考えられるということです。また,両国とも,政府主導の知的資産経営に対する開示の普及・啓蒙活動が活発に行われているといえます。 一方で,両国における相違点には各国政府が打ち出している知的資産経営報告書ガイドラインの違いが考えられるでしょう。日本のガイドラインは企業側の自主性を重視し,自由度の高いものになっているのに対し,ドイツは明確に3つのカテゴリを設ける等フレームワークが固まっており,企業側もそれに従って開示をしているという傾向があるといえます。

 ただし,企業側の自由度をある程度認め開示による差別化(Individualization)を図るのか,それともガイドライン等によるフレームワークの標準化(Standardization)を進めて行くべきなのかについては,両国において今後も議論の余地があるといえるでしょう。
 以下,両国のガイドラインの概要を説明します。

【日本の開示ガイドライン】
 日本では経済産業省より2005年に「知的資産経営報告書ガイドライン」が発表されました。当ガイドラインは,経営者の目から見た経営の全体像を示す「ストーリー」に重点を置くものとなっています。これはあくまで企業による任意の開示として始められました。具体的な記載の方法は,大きく以下2つから構成されます。

(1) 知的資産やそれを活用した企業価値の創造のやり方,将来の利益及びその持続性につきストーリー立てて説明する「本体
  (2) 典型的な知的資産指標の例を参考に,一般的に知的資産と関連すると考えられるものにつき任意に記載する「別添
【出典】経済産業省 知的資産経営報告書ガイドライン


 ここでいう典型的な知的資産指標とは,以下のような指標を例として挙げています。

経営理念等の社内浸透度
  次世代リーダーの育成方法(子会社社長平均年齢)
  R&D集中度
  客単価の変化
  新製品比率
  営業秘密の漏洩リスク(営業秘密の数とそれを扱うコア従業員比率)

 その他 32の指標を例として提示しています。なお,この指標を必ずしも採用する必要はなく,他に示せるものがあれば自主的に別添の形で記載してよいとされています。したがって,開示する企業側の自主性を尊重した形となっているといえます。

【ドイツの開示ガイドライン】
 一方,ドイツでは,2004年に知的資本報告書のガイドライン(「Intellectual Capital Statement ?Made in Germany」)が経済労働省(Federal Ministry of Economics and Labour)より発表されました。ドイツのガイドラインでは,知的資本を次の3つに大きく分類しています。

(1) 人的資本(Human Capital)
  (2) 組織資本(Structural Capital)
  (3) 関係資本(Relational Capital)

 ドイツのガイドラインでは上記3つに明確に分類されている為,開示する企業側もこの3つのカテゴリに沿って開示することが求められます。また,ドイツでは上記3つのカテゴリごとに顧客満足度や納入業者数(関係資本),また,専門職者数や経験年数(人的資本)といった22の指標の例を挙げています。

【まとめ】
 今後,会計基準の国際的統一化が行われる方向となりますが,国際会計基準のIAS38では,すでに注記において知的資本の開示を推奨しています。日独における政府による上記のようなガイドラインの整備は,企業にとって開示する情報の整理に役立つと考えられます。効果的な知的資産の開示には,上記政府によるガイドラインなどの整備の他に企業側の開示に対する自主性,およびその継続が必須であると考えられます。
 まず,自主性を欠いた開示は過去に散見されるように次のデメリットがあると考えられます。

(1) 情報開示そのものが目的となり,形骸化してしまう
  (2) 本当に有用な情報が開示されないことにより,情報利用者の理解を妨げる

 本来,開示は「情報の非対称性」を埋める役割を果たすはずですが,上記のデメリットにより逆に乖離させてしまう可能性もあります。知的資産の開示によるメリットを認識することで自主的に開示をする企業が増え,情報利用者との「情報の非対称性」が解消へ向かうことが望まれます。

 知的資産経営報告のメリットとしては,以下のことが考えられます。

自社の知的資産・資本の棚卸
  資本調達コストの軽減
  内部管理,内部コミュニケーションツールとして活用
  外部コミュニケーション(特に銀行及び投資家)の材料の強化・改善
  組織内部の戦略可能性と価値創造
  戦略可能性及び知的資本の透明性の改善により,リソースを効果的に配分できる
【出典】Intellectual capital(IC) or Wissenbilanz process: some German experiences


 実際に知的資産経営報告書を作成された企業の経営者によれば,自社の有する情報を整理し,次の知的資産経営戦略の立案に非常に有用であるとのことでした。

 ただし,このような自主的な開示も継続して行われない限り,過去の情報との比較を行うことができず,その効果は一時的なものとなってしまいます。そのためには,モチベーションを長期に渡りどのように維持するか,例えば,政府がなんらかの形でインセンティブを与えるといったことも課題として検討しなければなりません。 意義のある知的資産経営の開示が継続的に行われるためには,企業側の自主性および努力とそれをサポートする環境の整備が今後更に求められると考えます。



| このフォーラムについて | INDEX | 日経BP知財Awareness | 産業イノベーション | テクノアソシエーツについて |