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知財評価手法としてのリアルオプション
新日本有限責任監査法人
アドバイザリーサービス部知的財産部
公認会計士
関 大地氏

はじめに
 「価値創造経済」(2004年通商白書)という言葉に代表されるように,知的財産は,企業価値向上のバリュードライバーとして重要性を増している。それと共に,知的財産の経済価値を如何に評価するかという事も重要性を増していると思われる。ここでは,近年わが国においても認知されつつあるリアルオプションを取り上げ,特許や技術等の知的財産の経済価値評価への適用可能性について述べる。
 なお,本文中の意見に関する部分は私見であることをあらかじめお断りしたい。

伝統的なDCF法とその限界
 まず,以下のようなケースを考えてみたい。
 企業Aは,研究開発投資を行い,開発終了後は開発技術を利用した製品の市場への投入を計画している。但し,当該製品の属する市場は競争が激しく,製品販売により生じるキャッシュフローの金額は不確実(販売が好調または不調)であるとする。この場合の新しい生産技術の価値を評価する場合を考える。
 ところで,知的財産の伝統的な価値評価手法の中にDCF(Discounted Cash Flow)法がある。これは,(1)当該技術を用いて製造・販売することから生じる将来のキャッシュフローを見積り,(2)これを現在価値(現在時点での貨幣価値)に割り引いて,(3)研究開発に要した投資額を差し引き,その純額(正味現在価値)をもって当該技術の価値とするものである。
 このDCF法には以下のような特徴がある。

(1) 当該技術に係る将来時点での研究開発投資は当該時点で必ず実行されるという前提に立っていること。
(2) 例えば将来キャッシュフローとして,期待キャッシュフロー(好調シナリオと不調シナリオの加重平均値)を用いる場合,あたかも将来キャッシュフローを現在時点で確定しているものとして扱っていること。

 すなわち,伝統的なDCF法は,将来の投資支出や将来キャッシュフローを現在時点で確定しているとの前提の上に立ち,投資プロジェクトの収益性を現在時点で判断する方法と言える。

リアルオプションによる評価手法の特徴
 しかし,実際のマネジメントにおいては,上のように将来の投資支出を現在時点で確定する必要はなく,将来の市場状況が好調であれば投資を実施すればよく,逆に悪ければ投資を実行しなければよい。すなわち,経営者は投資プロジェクトについて,投資を延期するという選択肢(オプション)を持っており,その意味で経営上の柔軟性を有している。リアルオプションとは,このような経営上の柔軟性を経済価値評価に織り込むことを目的とした評価手法である。
 例えば,上記の例に関して,将来キャッシュフローが好調時に100億円,不調時には50億円発生し,将来の研究開発投資に80億円要するとしよう。
 伝統的なDCF法では,将来のキャッシュフローとして期待キャッシュフローを用いれば,不調時の影響も織り込まれてしまうので,正味現在価値としての技術の価値は相対的に低い値になるはずである。
 これに対してリアルオプションでは,好調時に投資を実行すると100−80=20億円のプラスのペイオフが発生し投資を実行すべきだが,不調時には50−80=△30億円のマイナスのペイオフとなるので投資を実行しなければよい。すなわち,不調時のペイオフはゼロとなる。そして,好調時,不調時の将来時点のペイオフ80億円,0億円をもとに現在価値に割り引くことで技術の経済価値を評価することになる。すなわち,将来キャッシュフローのダウンサイドリスクを回避するという意味で,投資の延期というオプションを織り込んだ経済価値を算定するのである。従って,ペイオフの好不調の差が激しいほど,すなわち,将来キャッシュフローの変動性(ボラティリティ)が高いほど,ダウンサイドリスクの回避の効果が現れ,結果としてリアルオプションによる経済価値が高くなりやすい。

リアルオプションによる評価の適用範囲
 評価の対象となる経営上の柔軟性は延期オプションに限らない。投資プロジェクトの中止や拡大等様々な経営上のオプションを評価に組み込むことで将来の知的財産のポテンシャルを経済価値に反映できるのがリアルオプションの特徴である。逆に言えば,経営上のオプションのない投資プロジェクトに係る知的財産の評価にはリアルオプションで評価する利点は少ないといえる。また,将来のキャッシュフローの変動性が高い,すなわち不確実性の高い知財の評価に適しているといえる。
 例えば,バイオ関連の研究開発等,不確実性の高い投資プロジェクトにかかる特許の経済価値の評価などはリアルオプションに適した事例といえるだろう。




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