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先端技術系企業の株式公開 安斎裕二氏
新日本有限責任監査法人
公開業務部
公認会計士
安斎裕二氏


 革新的な知的財産を中核技術として持っている企業を先端技術系企業と呼ぶ。バイオ,ロボット,携帯電話等の電子部品,材料加工,ナノテクといった先端技術で売上をあげていく企業である。このうち,いわゆるベンチャー企業が株式公開に向かって事業を進める際にはいくつかの留意点がある。
 極論を言うと,先端技術系ベンチャーには知的財産とそれを支える人しかない。
 企業に必要な資源は,「人,もの,カネ」といわれるが,大規模な製造設備や店舗といったものはこの種の企業にはない。カネは,有望な技術で,かつマーケットを把握している企業に集まってくるので,必要条件というよりは「結果」に近い。先端技術系ベンチャーに最も必要なものは人である。知財は人の頭の中で生成され,複数の人や企業の協力により,他の知財と組み合わされ,洗練され,徐々に製品の原型に近づいていくからだ。
 知財の開発については,基本となる知財については起業時にある程度開発を終えているか,そうでなければそれに必要な人材は確保しておかなければならないだろう。ベンチャー・キャピタルなどの出資を受けるのであれば,彼らの期待する3年から5年といった短期間に大きな価値を生み出さなければならないからだ。
 さらに,知財には開発後のマネジメントが欠かせないから,特許実務や他社動向の調査,研究開発の進捗管理,共同研究,ライセンシング,製品の販売委託を含むアライアンスの構築などに長けた人材も確保していく必要がある。
 知財関連のIR(投資家向け広報活動)や知財を基にした資金調達のノウハウも必要だ。先端技術系企業の場合,どのポジションであってもその技術を理解した人材が必要であるから,人脈でこのような人材をたぐり寄せていくしかないだろう。また,公開企業となるためにはこれらを組織として遂行する必要がある。個々の企業の知財,技術,市場に最適で,かつ内部統制の機能する独自の組織化を行わなければならない。
  次に,このような人材へのインセンティブ(給与,ストック・オプション,株式保有)の問題が出てくる。中核技術を知的に支える人達をやめさせるわけにはいかない。かといって,ベンチャー企業で使える金には限度があるから高給を支払うことは無理だ。例えばストック・オプションを持ってもらい,事業成功の際のキャピタルゲインに期待して努力してもらうというケースが多いだろう。ただし,ストック・オプションなど潜在的な株式をあまり多く出しすぎると後で会社の資本構成が歪むおそれがあるので,資本政策を十分に練ることが必要だ。またストック・オプションは原則として給与等会社の費用となることも留意したい。
 また,万一,会社の知財に精通した人が退職した場合の,機密保持の対策(契約)なども初期の段階で準備しておく必要がある。
 ところで,無形の知的財産が会社の内外に次々に生まれる過程で,この知財の囲い込みの巧拙がしばしば株式公開を成功させるか否かのポイントになる。
 すべての知的財産が会社所有の特許となっている場合はいいが,そうでないケースの方が多い。知的財産が特許権などに権利化されておらず模倣されやすいケース,ノウハウとして機密保持しているが一番詳しい人材が退職してしまうケース,特許権などを会社の外部の者が所有しているケースなどである。
 最初のケースはどうしようもない。何といっても知財の開発時に弁理士など専門家の支援を受けて特許化を漏れなくすべきことは言うまでもない。専門家に依頼すれば費用が発生するが,この金額を惜しむと後悔することになる。退職者が出るケースの対策は先に述べた通りである。
 また,重要な特許権などが社外の者の所有になっているケースは特に注意を要する。会社の基幹特許については,専用実施権などを設定し,長期間安価で独占的に使用できる場合などを除けば,会社自身が特許の所有者となっていなければならないのが原則である。そのために早期に所有者から会社が譲り受けることが必要である。時間がたってしまうと,その特許の価値が顕在化してしまい,価格が高くなって払い切れないという問題が生じるおそれがある。だからといって,価値の顕在化しつつある特許権を低廉な価格で譲り受けると,税務の問題が生じる可能性があるので注意が必要である。




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