CIPOフォーラム ホームへ 特集 企業戦略 イベント 提言


ライセンス契約に伴う「ロイヤリティ監査」の重要性と日本企業の課題
品川陽子氏
新日本有限責任監査法人
公認会計士
品川陽子氏

「ロイヤリティ監査」を日本企業が敬遠しがちな理由
 通常のライセンス契約には,ロイヤリティ計算の正確性を監査するためライセンサー(実施権許諾者)が公認会計士などに依頼してライセンシー(実施権者)の帳簿を監査する「ロイヤリティ監査権」の条項が存在します。このロイヤリティ監査権については,「欧米企業はよく行使するのに対し,日本企業はほとんど行使していない」といわれています。
 日本企業がロイヤリティ監査をあまり実施していない背景には次のような理由が考えられます。
 第1の理由は,ロイヤリティ収入を「付加的なもの」と認識し主な収益源とは捉えていない企業が多いことです。特に製造業では,あくまで「モノづくり」を本業として収益を獲得し,自社で利用しない技術に関する権利にはそもそも収益獲得を期待していない,といった傾向が見受けられます。このような場合,企業はロイヤリティ収入を得ることに積極的ではなく,あまり多くの労力を配分しません。
 第2の理由は,企業内においてロイヤリティ収入に対して責任を負う担当者あるいは担当部門が明確になっていないことです。これは第1の理由に関連するのですが,一般にライセンス契約には事業部,知的財産部,法務部など複数の部門が関わる場合が多く,当初の契約の締結にはそれぞれの責任を負いつつも,契約の実施後,ロイヤルティ収入を主体的に管理する責任者あるいは責任部門が不明確なケースがしばしばあります。こうした企業においてロイヤリティ収入は「自動的に受け取るもの」として取り扱われていることがほとんどではないでしょうか。
 第3の理由は,ロイヤリティ監査の実施が「ライセンサーとライセンシー間の信頼関係を損なう行為」と解釈されがちな企業文化や商慣行の影響です。友好的なライセンス契約を目指した交渉では,双方の企業の担当者は契約の締結によってお互いにwin−winの関係を築けるように交渉を進めることを念頭に置き,相互の信頼感を重視します。海外では多くの企業がロイヤリティ監査を契約上の当然の権利行使と認知しているのと異なり,日本の企業では,「ロイヤリティ監査の実施が相手方を疑っているというサインに受け取られ,信頼を損なう行為になりかねない」と考えられがちです。
 以上のような理由から日本においてロイヤリティ監査はまだまだ根付いていないのが実状といえます。

ロイヤリティ監査の重要性とリスク
 ロイヤリティ監査の結果は,通常,契約当時者以外の外部に公表されないため,第三者が実態を把握することは困難です。ただ,海外における経験値として伝えられている実務情報として,「ライセンシー企業の80〜90%が正確な報告を実施しておらず,ロイヤリティ金額については10〜20%程度の誤差が含まれている可能性がある」との指摘があります。
 このようにロイヤリティ報告に間違いが生じる背景には,例えば以下のような原因があります。


(a)故意の脱漏

(b)ライセンシーとライセンサーで契約内容の解釈が異なっていること
 【具体例】
   ライセンス対象商品・製品
   計算対象にするべき出荷,製造などのタイミング
   販売子会社を通じて製造するような場合における基準価格の取り扱い
   見本品や不良品などの取り扱い
   値引,手数料などの控除項目

(c)ライセンシー側での計算手続きが適切にデザインされていないこと
 【具体例】
   担当者間の引き継ぎが適切でない場合
   計算の基礎となる財務データの抽出条件設定ミス
   計算確認作業の不実施

 (a)は基本的にライセンシーの順法精神の問題になります。「ライセンサーが報告の正確性を確認する機会はない」とライセンシーが意図的に過少報告していると思われる場合は,ライセンサーがロイヤリティ監査の打診をしただけでロイヤリティの追加支払いについての交渉に入ることもあります。このような過少申告のリスクは,定期的なロイヤリティ監査の実施がけん制になり減少させることが可能です。
(b)については,ライセンス契約の締結に向けた交渉時に,ライセンサー,ライセンシーの両当事者の経理財務部門が参加し,ロイヤリティの支払いと受け取りの具体的なフローを予想の上,そうした部分に関する取り決めも契約の条項に加えることで,かなりの部分が改善できます。なお,契約締結後,交渉時には想定していなかった取引が発生した場合,あるいは新製品の発売によるライセンス対象製品の変更などの場合には,その都度,契約当事者間で確認し合うことが必要です。
 (c)については,ライセンシーの業務フローの問題です。ロイヤリティ計算は日常的に発生する業務ではなく,きちんと業務フローが作成していない企業は,少なくありません。しかし,前述のような具体的な原因により多額の未払金が発生してしまうリスクがあるため,ライセンシーはロイヤリティ報告の内部統制を整備しておく必要があります。
 なお,ロイヤリティ監査はあくまでロイヤリティ報告の正確性を調査する行為であり,正確でなかった場合の原因 ─ (a)故意だったのか,あるいは(b)(c)のように意図せざる過失だったのか ─ の特定はほとんど不可能です。



| このフォーラムについて | INDEX | 日経BP知財Awareness | 産業イノベーション | テクノアソシエーツについて |