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ライセンス契約と会計上の処理について
新日本有限責任監査法人
三代 まり子氏

 企業にとってライセンス活動は,自社の継続的な成長を助長するため,また,急変するビジネス環境に適応するための「イノベーション力」を短期間で発揮する上で,非常に重要な経営手段であると言えます。
 財務会計的な観点では,ライセンス活動とその前提となる技術および契約は,「無形」という性質上,完成度が分かりにくく活用の目的が多岐に亘るため,画一的なルールに基づいた会計処理を適用することが困難です。そこで,「会計的なジャッジメント」が必要になります。
 「会計的なジャッジメント」とは,ライセンス契約の目的・内容に基づき,「資産として計上をするのか,それとも費用として処理をすべきか」といった判断を指します。つまり,会計の基準をどのように実際の取引に当てはめるかという会計上の分岐点です。
 以下に,半導体業界におけるコア技術のライセンス契約を想定し,関係する会計基準と会計処理の留意事項および内部統制上の問題点について検討します。
 なお,参照すべき会計基準として,本稿では無形固定資産の会計基準が比較的整備されている米国会計基準(US GAAP)を中心に取り上げていきます。

米国財務会計基準(Financial Accounting Standards:FAS)抜粋
 (1)FAS2:“Accounting for research and development cost”(研究開発費)
 (2)FAS142:“Goodwill and other intangible assets”(のれん,および,その他の無形固定資産

ケーススタディ:半導体業界における典型的なライセンス契約例
 半導体業界におけるライセンス契約として,IPコア(各種の計算回路やPCIパスへの接続回路などニーズの多い処理をプログラム化したもの。UART,CPU,Ethernet コントローラ, PCI インターフェースなど)に関するものがあります。
 契約内容を大別すると,(a)確立済みのIPコア技術(技術がそのままの状態で,製品の製造・販売のいずれかに使用・活用できる状態)をライセンス契約する場合,(b)未確立のIPコア技術(追加の改良・研究開発を要する状態)をライセンス契約する場合,があります。
 (a)の場合は,すでに確立済みであるため,原則的に追加作業を要さずに契約締結時点においてライセンシー(実施権者)が使用可能な状態となっています。これに対して,(b)の場合は,契約時点以降に追加的な作業を依頼することによってライセンシーが利用できる状態のものを指します。

   まず,会計上,問題になるのは(b)未確立のIPコア技術の取り扱いについてであり,技術の確立度合いに応じたいくつかの判断ポイントが生じます。

技術の確立度合いに応じた会計的な判断ポイント
 第1の考察点は,未確立の技術について,追加作業が研究開発に該当するか否かです。
 会計制度において定められた研究開発のスコープ(範囲)の1例として,前出のFAS2は,「研究開発費(research and development)」を次のように定義しています。

研 究(Research) 新しい製品やサービス,また,新しいプロセスや技術を開発するために,そして,既存の製品やプロセス(工程)に著しい改良をもたらすために有用な新しい知識の発見を目的とする計画的な調査。
開 発(Development) 研究成果や他の知識をもとに,新しい製品やプロセス,また販売および使用を目的とする既存の製品やプロセスに著しい改良をもたらすために計画しデザインすること。開発に含まれるものは,概念構築(conceptual formulation),企画・設計,代替製品のテスト,原型の作図,試験設備の操業である。また,含まれないものは,既存の製品,製造ライン,製造方法,およびその他の継続的な操業に対する日常的,または定期的な変更であり,それらが改良に該当するものであっても,開発には含まれない。また,市場調査や市場化テスト活動は含まれない。

 ここで,「著しい改良」に該当するか否かが「資産計上」または「費用処理」のどちらになるかの大きな分岐点となります。つまり,追加的な作業が前述の研究開発費の定義に該当する場合は,将来の収益獲得に不確実性を伴うため,発生時点で費用として処理することとなっています。
 会計上の判断を誤らない為の対応としては,ライセンス契約の締結時,決裁書類の作成段階から必要な情報を漏れなくかつ具体的に記載しておくことが重要です。例えば,「追加の研究開発を要するか否か」,また追加の研究開発が必要な場合にはそれが「著しい改良に該当するか否か」を判断できるような要素が,望ましい情報といえるでしょう。

 次の考察点は,追加作業が著しい改良に該当する技術について,製品の製造・販売のいずれかに使用・活用できる状態になった時点,つまり,「いつ研究開発の範囲・段階を脱したか」を判断することです。ここでの線引きは,技術そのものを熟知した者と,会計上の判断が出来る者が一緒に行うことが望まれます。多くのライセンス契約を行っている企業では,契約ごとの会計処理のばらつきを排除する為に,このような判断の統一化が非常に重要となってきます。
 上記の線引きを行う際に問題となるのが,マイルストーンの理解と判断です。R&Dを行う際には,マイルストーンを設けて,R&Dの進捗度合いにより支払条件を設定している場合があります。一方,マイルストーンに関係なく,定額で分割支払を行うケースもあります。前者の場合は,R&Dの範囲を脱し,商業的に使用可能となったIPコアがいつの時点で確立されたか明確であれば,その時点以降の支出は資産計上できる可能性があります。後者の場合は,研究開発の進捗度と支払タームが必ずしも対応しない為,線引きが難しく,全額費用処理をしなければならない可能性があります。
 なお,研究開発に係る不確実性のリスクをライセンサーとライセンシーのどちらが取るかによっても処理が変わることがあります。研究開発が成功しなかった場合に,契約書において契約金を払い戻す(Refund)と明記されている場合は,ライセンサー(提供する側)がそのリスクを取る事により,ライセンシー(提供される側)は資産として計上する可能性があります。

 これまで,確立済みの技術は資産に計上する可能性があることを前提に述べてきましたが,資産計上のためには更にIPコア確立後の代替的用途を検討する必要があります。

資産計上にはIPコア確立後の代替的用途(AFU)の検討が必要
 研究開発を目的として取得した技術などを会計上,無形固定資産として資産計上するには,当初の目的以外の別の活用・使用方法(AFU:Alternative Future Use)が必要になります。そうした使用が可能でかつマネジメントにその使用意図がある場合に,資産計上が適当であると判断されます。

 AFUの基本的な概念あるいは考え方については,米国公認会計士協会(American Institute of Certified Public Accountants:AICPA)の実務指針(AICPA Practice Aid),‘Assets Acquired in a Business Combination to Be Used in Research and Development Activities:A Focus on Software, Electronic Devices, and Pharmaceutical Industries’(3.2.07)が参考になります。ポイントは以下のように要約できます。

“Alternative Future Use”:
他から購入した無形固定資産のうち,試験研究活動を行うために取得し,将来において他の目的(研究開発プロジェクトまたはその他)に現在の状況のまま,かつ,追加の開発がなく使用できることが合理的に見込める場合。

 AFUとして,半導体業界においては例えば次に挙げるようなケースのものが該当すると考えられます。

次世代型の各種ゲーム機ビジネス(家庭用/携帯用)へ展開していく計画
ボードに搭載するだけで特段の改良を必要とせずに汎用的なインターフェースを用意することができ,次期製品・機種向けの開発にも使用していく計画
3次元カーナビゲーション用のLSIとして,他の車載メーカーにも展開する計画

 こうした計画などがAFUとして判断された場合は,FAS142にしたがい,無形固定資産として資産計上します。
 なお,資産計上された技術,つまりライセンス契約は通常1年間以上の長期に亘るため,その経済的な耐用年数に基づき費用化します。その際,研究開発目的のために取得した資産であれば,減価償却費は,研究開発費として処理します。

実務的なソリューション例と内部統制が重視される理由
 以上のように,ライセンス契約の会計上の処理に関しては,「追加の研究開発後の対象技術が,製品の製造・販売のいずれかに使用・活用できる状態になった時点」,「研究開発以外の使用・活用方法の有無」の判断が重要になります。
 「いつの時点で研究開発が完了し,製品化・事業化が可能になったか」,「将来可能性を含めどのような技術用途があるのか」といった線引きには,やはり技術や事業自体を熟知した者と,会計上の判断ができる者が協働することが望ましい形です。また,契約の締結時において,権利の帰属関係や対象範囲,使用方法などの要素と同様に,会計上の判断に不可欠な情報を書面に組み込んでおくためには,社内で起案書の作成ルールを統一したり,研究開発部門や法務・知財部門などを含む全社的な共通認識の醸成などを図ったりする必要があります。

まとめに
 本稿ではライセンス契約に係る問題点とその会計処理について基本事項を中心に概観しました。この問題には,対応が欠かせない留意点の他にも,各企業の研究開発戦略や知的財産戦略,ひいては経営戦略に応じて複数の選択肢が想定される局面が多々存在しています。それは,会計,研究開発,知的財産,事業と,複合的な観点に基づくジャッジメントを要する課題であり,その解決に向けた取り組みとしても,大局的な経営観点とその基盤となる内部統制の強化が今後ますます重要になる,といえるでしょう。




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