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三位一体によるパテント・ポートフォリオの構築(2) 鶴見 隆氏

東京農工大学大学院技術経営研究科
技術リスクマネジメント専攻
教授
鶴見 隆氏

 知的財産ポートフォリオマネジメントとは企業の保有する特許の価値と業界の技術動向を踏まえて全体としての強み弱みを判断する際に活用する指標であり,特許戦略の構築,ライセンス交渉の有利な展開,研究開発戦略の構築等ベースとなっている。
 知財戦略経営においては,知財戦略を事業戦略や研究開発戦略と融合させて,事業収益や企業価値が最大となるように知的財産を活用することが重要である。
 知的財産の情報戦略という側面では,PPMの実施を通じて,自社の知的財産を可視化すると共に,他社の知的財産との比較・分析に基づき,自定着の一助となることを願っている。今回は3回連続連載の第2回目である。

3.第2のポイント「パテント・ポートフォリオの構築を,特許情報をベースに進めること」について
 パテント・ポートフォリオの構築と言っても,白紙に絵を描くようにはいかない。必ず,先行文献があり,障害となる他社特許があるからである。したがって,障害他社特許を知り尽くし,自社の進出可能性がどこにあるのかを正確に見極めることが必要である。それには漏れのない特許情報の収集と完璧な解析が必要であるが,それを如何にして進めるかを次に示す。

3-1.「戦略データ・ベース」の構築
 筆者がかつて在籍した企業には,「特許管理の要諦は,特許情報にあり」と言う格言があった。曰く,「特許情報を知らずして発明を行なうことはできない」,曰く,「特許情報を知らずして,特許明細書を書くことはできない」,曰く,「特許情報を知らずして,異議申立を行なうことはできない」,曰く,「特許情報を知らずして,特許承認を行なうことはできない」・・・・・・。筆者はこの格言のさらなる全社定着を目指して,特許情報に関する全社的なセンター機能を構築し(「技術情報センター」),優秀なサーチャーを多数配置して,全社の研究者に対するサポート体制を確立した。サポート活動の中心は,「戦略データ・ベース」の構築である。
 「戦略データ・ベース」とは,目的とする事業ないし技術に関連する全ての特許情報を集録し,かつ付加情報を入力することによって,事業・研究開発・知財の戦略策定・推進が効果的に進められるようにした特許情報の集合体である。これは以下のような手順で構築される。
(1) 事業戦略あるいは研究開発戦略に関係する技術について,徹底した特許情報調査を行い,その結果を電子データとして保存する。
(2) 事業及び研究開発の進展に併せて,継続的に関連特許情報を取り込み,追記してゆ く。これによって関連の特許情報は全て電子データとして活用可能な状態が保証される(「ローカル・データ・ベース」)(図7)。
(3) 次に,ローカル・データ・ベースに対して,戦略的な特許情報解析を可能にするためのキーワード(付加情報)の入力を行なう(図8)。キーワードとしては下記のようなものが挙げられる。
  イ. 課題,解決手段に関する統一用語
課題,解決手段について,特許請求の範囲あるいは明細書で使用される用語は出願人毎に異なっており,これらを自社での利用に適する用語で統一することが必要である。
  ロ. 自社が注目するプロセス,製品,機能,用途等との対応関係
  ニ. 重要度
自社の事業に対する影響度に応じて,重要度をランク付けする。
  ホ. その他
(4) 事業・研究開発の進捗と併行して,逐次,継続調査結果の入力及び付加情報の入力を繰り返してゆく。
 このような「戦略データ・ベース」は,自社特許出願の特許性の判断,障害他社特許の発見と対策等,日常的な知的財産管理にとって非常に有効な手段であることを筆者の在職中確認したが,その後,現職における研究を通して,戦略的知財管理にとっても有効な手段であることを確認した。以下それを紹介したい。

図7&8

3−2.「戦略データ・ベース」による特許情報解析
 この戦略データ・ベースを用いることによって,戦略的な特許情報解析を系統的に進めることが可能となる。図9はこれを示したものである。
 特許情報解析を筆者はマクロ分析,セミマクロ分析,ミクロ分析に大別して捉えているが,マクロ分析は主に技術,市場,他社の動向を把握することを目的としており,個別の特許は件数としてまとめて表示される(図10)。セミマクロ分析はそれに対し,目的に応じて書誌事項,付加情報等から選んだキーワードを利用し,2軸ないし3軸で解析を行なうマトリクス分析である(図11)。ミクロ分析はそれに対し,課題,技術手段,効果等,特許の意味内容に着目して解析を進める手法であり,課題・解決手段系統図,クレームマップ,構成要件対比表等が含まれる(図12)。
 マクロ分析は自社の当該技術領域におけるポジションを明確化するのに有効であり,セミマクロからミクロに進むことによって,競合他社との競争力比較,技術,権利面での他社との抵触関係の把握,研究開発課題の案出,特許出願アイデアの創出等,戦略の推進に必要な具体的情報を得ることが可能となる。

図9&10
図10の拡大図

図11&12
図11の拡大図


3−3.特許網構築のための手法
 「戦略データ・ベース」に基づいて,特許網を構築するための手法を2つ紹介したい。1つは,競争力分析シートであり,もう1つは課題−解決手段マップ(及び系統図)である。

(1)競争力分析シート
 競合他社に対する技術・知的財産の優位性を検討するためには,競争力分析シートが有用である。これは図13に示すように,注目する市場において市場シェアの高い競合他社との間で特許保有及び特許出願状況の比較を行なうものである。対比を行なう他社としては,市場シェアの高い数社(市場にまだ製品がでていない場合には,出願数の高い数社)を選択する。このような企業を選択して対比を行なうのは,事業戦略ないし知的財産戦略において先行する他社をベンチ・マークするためであり,もし自社がトップである場合には,他社との差を拡大するためである。
 この図において縦軸には,「戦略データ・ベース」に付加した情報の中から目的に適合するキーワードを選択して配置する。横軸には特許出願,登録特許を配置するが,自社の場合には,営業秘密として秘守した技術もカウントすることが望ましい。営業秘密をカウントしておくことによって競合他社の公開・守秘に対する戦略が読み取れるし,他社が製造方法についての特許出願を進めていることがわかった場合には,将来の海外進出が予想される外国に製造方法の出願を積極的に進めていく戦略も必要となろう。
 縦軸にプロットした課題,解決手段,用途等に対する自他社の出願状況の分析から,自社がどこで優位であり,どこで劣位にあるかを読み取ることができる。優位性をさらに伸ばしていくのか,それとも劣位を補っていくのかを戦略的に判断することによって,具体的な研究開発・特許出願の立案・推進に踏み込んで行くことになる。

(2)課題−解決手段マップ及び系統図
 自社の経営資源を投入するドメインを設定したら,そのドメインにおける精緻な特許情報解析が必要である。これを行なう有力なツールが,課題−解決手段マップ(図14)である。これにより,他社が市場の求める技術課題に対し,どのような解決手段で対応しつつあるかについての全体的な見取り図が明らかになる。このマップの中から,自社の注目する領域を選んで,課題−解決手段系統図(図15)を作成すると,自他の技術開発の相互関係を具体的に把握することができる。さらにこの系統図の長所は,課題,解決手段の上位概念化及び強制発想によって,新しい課題,新しい解決手段についての手がかりが得られ,具体的な研究開発テーマを抽出することが可能になるとともに,技術的に意味のある特許網構築計画の立案が可能になることである。
 発明とは,技術課題に対して,具体的な解決手段を与えることであり,出願明細書はそれをわかりやすく説明したものである。したがって,関連する特許群から課題−解決手段系統図を作成し,上位概念化,強制発想を行ってゆけば,研究開発及び特許網構築の有力な武器になるであろう。


図13&14
図14の拡大図

図15


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