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【特許マップの実践講座】 第5回
特許マップ・ソフトのカスタマイズ
− 自分だけの知財戦略とその成長戦術 −
桐山 勉氏
帝人知的財産センター
OB嘱託
工学博士
桐山 勉氏

 特許マップの実践講座の第5回目として,カスタマイズ版の特許マップ・ソフトを活用する応用例を述べる。SDI(Selective Dissemination of Information)検索とWS(Watching Service)収集は日常的に行われている。しかし,今後の特許マップ作成時間を如何に短縮するかというカスタマイズを考えると,(1)SDI検索で毎週配信される特許情報を蓄積して,定期的に自分の特許マップの漏斗に流し込んで,繰り返し分析・解析が行われているか,(2)WS情報はその都度蓄積されて特許マップをリニュアルされているか,(3)以前に自分が作成した特許マップの技術用語切り出し検索式の保存式を見直しをしているか,(4)前回の特許マップで苦労した点をメモしておいて,それを簡略化する工夫とアイデアを醸成しているか,など改善の余地が残っていることに気付く。

1.特許マップ(パテント・マップ)作成の基本姿勢と習慣化
 特許マップを作成する際には,特定の技術に関する特許情報の母集団を最初に集めなければならない。そのためには特定の技術に対する一定レベル以上の理解が必要である。「好きこそものの上手なれ」という諺があるように,その技術を好きになることが秘訣である。そこで,「情熱を持った技術好奇心」を必須要素Aと呼ぶとことにする(図1)。
 また,特許情報を特許分類コード(IPC,FI,Fターム)と出願人,及び年代履歴により,単に分析をするだけでなく,特許マップの実践講座第2回において説明した「特許マップは三段跳び競技」のステップとジャンプに進むことが大切である。知恵を最大に働かせ作成した自分の技術分類で膨大な特許情報を整理戸棚に仕分けすることが必要である。そして,戸棚に仕分けされた特許情報を眺めながら,仕分けする前にあらかじめ,おぼろげに浮かんだ自分の仮説を特許情報という具体的な客観的証拠により自分なりの展望に成長・進化させることが必要である。試行錯誤で約10個ほどの特許マップを作成し,卵の孵化期のようなプロセスを経て初めて,「明確な展望」が見えてくるようになる。このような特許マップの思考要素を必須要素Bと呼ぶことにする。
 特許マップのジャンプ段階では,かなりの数の特許マップが作成される。特許マップ・ソフト「PAT-LIST」では10個のグラフが上限個数であるから,グラフを数十個も作成するとPAT-LISTファイルは当然数個できる。このように多くのグラフを作成し,熟考するプロセス要素を必須要素Cと呼ぶことにする。
 さらに,作成した多くのグラフの中から上司・経営層に興味を喚起させるようなグラフを中心にコメントをつけて可視化した資料を作成して,見える化したプレゼン資料を作成するプロセスが一段落する。このプロセスとその成果を必須要素Dと呼ぶことにする。しかし,完了状態にはまだ到達していない。

図1:特許マップ作成の基本姿勢と活用基本式(A+B → C+αi → Di)
図1:特許マップ作成の基本姿勢と活用基本式(A+B → C+αi → Di)

 それでは,完了状態とは何を指すだろうか。各社のR&D(研究開発)は生き物のように毎日毎秒と変化し進化している。その成果が特許情報として毎週新規に公知情報となる。各研究者は,新規の特許情報の中に,自分の研究に強く影響するものがないかを目を皿のようにして警戒しながら探している。それが,SDI特許情報である。毎週発生するSDI最新特許情報を現在保持している特許マップに取り込み,処理することが重要である。筆者はこれを「追加情報を特許マップの漏斗に流し込む」+αプロセスと考えている(筆者はこの処理をM(マップ)−SDIと呼ぶ)。一方,SDI最新情報に基づきWS情報も発生してくる。これらを既存の特許マップ・データに追加して更新することが重要である。最新の特許情報を追加更新して,線状から面状に特許マップの成果を拡張することを勧める。このように最新情報で必須要素Dを更新させ進化させることを筆者は必須要素Diと呼ぶことにする。
 以上の一連の基本流れを,特許マップの基本姿勢と基本式「A+B→C+αi→Di」とした(図1)。
 これを,日常的なR&D行動に習慣化することが「R&D効率化の具体的な成長戦術」と考える。これこそが,自分だけの知財戦略をつくる具体的な有効手段ではないだろうか。

2.カスタマイズは何種あるか
 カスタマイズとは,利用者の立場の違いによってより便利になるように特許マップ・ソフトの活用法を工夫することである。最近読んで感銘を受けた本に本田直之氏の「レバレッジ・リーディング」がある。内容は「てこの原理を利用した多読」の薦めであった。この本の中で,スティーブン・R・コヴィー氏の「7つの習慣」の次の文章が引用掲載されている。

 「刈り取る」(生産する)ことに熱中しすぎて,「刃を研ぐ」(生産能力を高める)ことを忘れている人があまりにも多い。

 特許マップのカスタマイズ化は,まさにこの「刃を研ぐ」ことに当たる。特許マップの便利性が向上するだけでなく,その結果を得られるスピードが飛躍的に向上するからである。便利になり,結果を得るスピードが向上するものは全てカスタマイズであると筆者は考えている。カスタマイズには次の6種類が考えられる。一般には,下記の1)だけがカスタマイズと認められているが,2)〜5)もれっきとしたカスタマイズと筆者は考える。
1) オプション機能を付加する(当然,プログラムを作成し,変更してもらう)。
  2) 連携して利用できるようにリンク先機能を変更する。
  3) 個人的なノウハウの範疇に入るが,登録式機能を多用する(辞書機能,切り出し検索式)。
  4) マクロ機能を使ったEXCELと連携させて活用する。
  5) ユーザーシートを自分専用に作成し,頻繁に利用する。
  6) その他
 抜本的にリエンジニアリングする工夫がカスタマイズになる(図2)。

図2:リエンジニアリングとカスタマイズ
図2:自分の納得させる思考と演習道場への参加

3.時間がないからこそ,高速技術情報収集プロセスが必須
 特許マップの実践講座第3回目においてRTIPRapid Technology Intelligence Process,筆者訳:高速技術情報収集プロセス)を紹介した。特許マップの基本姿勢と活用基本式(A+B→C+αi→Di)の必須要素Diを作成することがRTIPと考える。「特許マップを作成するのにどれくらい時間がかかるか」という質問をよく受ける。ここで,特許マップの実践講座第2回目で述べた「特許分析・解析のプロセス」を思い出して欲しい。7段階のプロセスの中で第3段階の仮説観点調査段階(Seed-finding)において既に特許情報の母集団は200件を超えていることが多い。その検索結果を母集団として特許マップの3段跳びのホップステップの処理を行う際にも,時間の効率的な活用になることは間違いない。ホップステップなら約2時間でできる。人間の記憶処理機能は約200件を越えると極端に難しくなるからである。特に,日常の業務の中で,電話や緊急会議の召集,上司への即座の報告などが入って,特許マップ作業の集中力が途切れることがある。そのような場合には,記憶に頼る部分の大きい特許情報の整理評価などできるはずがない。人間の弱い記憶力と整理機能を補う特許マップ・ソフトは頼もしいR&Dアシスタントでもある。R&D効率化には,特許マップの利用が避けて通れない。特許マップをカスタマイズすることは3段跳びのジャンプで繰り返し行うプロセスに真っ直ぐな近道を作ることを意味する。

4.三位一体化のオリジナル・データは特許情報がメイン
 特許マップの実践講座第3回目において,サーチャー(情報検索解析者)のプロフェッショナル・デベロップメント(専門性自己開発)を説明した。そこで,多くのサーチャーが「知財推進計画」に主唱されるように,「事業戦略−研究戦略−知財戦略の三位一体化」に貢献できる時代が来ることを祈ると述べた。ここで,3つの戦略に共通に使われる特許情報について注目した(図3)。ここでは正4面体を用いて説明する。

図3:三位一体化における特許情報の位置づけ
三位一体化における特許情報の位置づけ

 正4面体の底面の中心と三角推の頂点を結んだ線を軸として回転する三角推をイメージして,その3面に知財戦略研究戦略事業戦略を配置した。三位一体化の活動で使われる情報(学術文献,営業情報,新聞・放送ニュース,特許情報など)をすべて底面に配置した。日本の特許情報は日本特許庁から毎週新規に公表されるオリジナル情報である。分野も極めて多義にわたり,毎週8,000〜9,000件近くにのぼる。新聞情報や放送ニュースなどは元の情報があり,オリジナル情報ではない。その他に,営業情報もある。しかし,オリジナルの情報であること,量の多さ,発表が定期的であること,出所(出願人)と請求範囲が文書化されているという信頼性の4点から判断して,「三位一体化のオリジナル・データは特許情報である」と結論づけるのが妥当である。

5.特許マップ(パテントマップ)・ソフトは道具にすぎない
 2007年3月下旬のNHKテレビ放送で,南方ジャングルの小猿が約1kgもある石で硬い実を割り,中味を食べるシーンを見た。木の実を上手く固定し,一番上手に実を割るのは経験豊富なボス猿であった。若いオス猿はボス猿のしぐさを懸命にまねて,数年間かけて学習し上手くなる。これはDNAで受け継いだ本能によるものではなく,学習による成果である,という放送内容で,筆者は感銘を受けた。
 特許マップも特許情報を分析・解析する必須道具である。道具なら,南方ジャングルの小猿のように,それを上手く使っている大ベテランを模範として真似て演習するのが,王道でないか。1,000人以上の規模で研究者が特許マップを活用している大手企業が存在することを本実践講座第4回目で紹介した。特許マップの活用教育を支えている旭化成の大ベテランを是非とも見習いたいものである。道具であるならば,改善された道具が出現するのは当然である。ヘビー・ユーザーの声を聞きながら,道具が改善されるのを見守りたい。改善された道具はぜひとも使いたい。まずは一歩を踏み出し,自分だけの知財戦略作りとその更新を繰り返す行動を継続することが持続成長戦術(Sustainable Progressive Strategy)につながると信じて止まない。


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桐山 勉氏 プロフィール
1973年名古屋大学工学部大学院合成化学科博士課程修了後,帝人(株)に入社。
同社において,ポリエステル重合技術,不織布技術,アラミド・パルプ技術,アラミド高強力繊維技術等の開発に従事。
1994年に同社の知的財産部に転勤となり技術情報の調査を担当。1997年サーチャー1級資格を取得し,1999年から2002年まで日本知的財産協会の特許情報検索委員会で活動。その間に,特許庁の技術分野別特許マップ作成委員会の会合にも日本知的財産協会の代表として参加。
技術分野別特許マップの化学分野の2テーマに対し2年間に亘り参画。
2003年より(株)帝人知的財産センターの技術情報グループのマネージャーを経て,2006年2月に同社を定年退職。その後,OB嘱託として部分勤務。
2005年から(社)情報科学技術協会のSIG-パテントドクメンテーション部会のコアパーソンとして,活動中。






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