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【特許マップの実践講座】 第4回
特許マップ活用には自らの「気付き」が重要
− 特許マップの6W3Hと異業種の演習道場 −
桐山 勉氏
帝人知的財産センター
OB嘱託
工学博士
桐山 勉氏

 特許マップの実践講座の第1回〜第3回を掲載してから約半年が過ぎた。知的財産業界の異業種出身者で構成される特許マップの勉強会においてその活用を勧めて来た。しかし,特許マップの教育に孤軍奮闘しても,なかなか共感が得られず,特許マップの必須性とその効果を伝える難しさを痛感した。それは「聞く人が自分を納得させる時間が足りないからだ」と実感するに至った。特許マップに対する知識・理解・納得の化学反応時間が必要であったと気付いた。実践講座の再開もその一助になると思い,実践講座の第4回目の筆を執った。

1.特許マップの6W3H
 昔から物事の理解をするには5W1H(When,Where,Who,What,Why,How)を把握することが必要だと言われる。しかし,最近のビジネス本では6W3H(When,Where,Who,Which,What,Why,How,How much,How many)で思考することが必要と述べられている。筆者は物事の理解を容易化・概念化する手段として,マトリックス表と正多面体の整理法から,独自の6W3H(What,Why,How ,Whom,Who,When & Where,How much,Know How)を用いて特許マップを表と正8面体で考えた(図1)。正8面体では一方向から見える4面だけは観察しやすいが,後ろの4面は見えない。特許マップの6W3Hのうち,見える4面は,What,Why,How,Whomであろう。
 Whatとは「特許マップとは何か」を意味する。特許マップとは膨大な特許情報を分析・解析するツールである。バブル・棒・折線・レーダーチャート・分散図など様々な種類がある。特許実践講座第1回で述べたように,特許情報の分析と解析とは明確に異なるということを認識することが重要である。分析は空から氷山の高性能航空写真を撮るようなものである。解析は氷山に舞い降り,潜水具を身に付けてその氷山の海面下も詳細に調査するように,特許情報の明細書を精読して主観的なメモをとり,評価をすることであると考える。
 Whyとは「特許マップはなぜ必須なのか」を意味する。特許実践講座第1回において述べた「1−3−5の必須理由」がこれに当たる。
 Howとは,「特許マップをどのように使うのか」を意味する。特許実践講座第2回の「特許マップは3段跳び競技」の解説と,第3回目の「デジタル・ハンドリング」の解説がこれに当たる。
 Whomとは「特許マップを見せる相手は誰か」を意味する。見せる相手が,自分の同僚・上司・経営者であることは容易に理解できる。しかし,彼らに見せる前に自分自身にも見せていることを認識すべきであり,これが「意識化と気付きの落とし穴」である。
 正8面体の見えない4面に位置するのは,Who,When & Where,How much,Know Howであろう。

図1:特許マップの6W3Hのマトリックス表と正8面体
図1:特許マップの6W3Hのマトリックス表と正8面体
区分 内容案 備考(狙い)
What 特許分析解析とは、分析解析の対象、種別タイプ 分析ツールを知る
Why 特許分析と解析の目的、目標、効果、
マップの必須理由
目標の明確化(必須)
1−3−5の必須理由
who 先ず自分が、自社の研究者が、
普及させるには
分析の普及化
Whom 自分を納得させる、上司に説明、
経営トップに説明
知財戦略の説明、見える化
when where いつでも、どこでもユビキタス 先ず経験、ユビキタス実践
How どの様に、特許情報の加工、
デジタルハンドリング
導入前の経験、セミナー参加、
率先垂範、演習道場


 Whoとは「特許マップを誰が作るのか」を意味する。まず,自分で作ることが重要である。ここで難しいのは,特許マップが教育機関で必修科目ではないことである。そのため,日常の知的財産業務やR&D(研究開発)業務に携わる実務担当者は特許マップの学習の必要性に自ら気付き,特許マップのセミナーに参加するなどして第1歩を踏み出さなければならない。気付きがおきない場合,特許マップを利用したり作らなかったとしても誰からも非難をされることなく,やんわりアドバイスされる程度である。  When & Whereとは「特許マップをどこでいつ作るのか」を意味する。特許マップはどこでも使え,場所をとらず,特別な環境も必要ではない。出張に持参するモバイル・パソコンで高速大容量・無線LANで特許マップを目の前で5分以内に見せられると,特許マップはどこでも使えるユビキタス・ツールであることがわかる。  How muchとは,「特許マップはいくらか,使いこなすのにどれくらい努力が必要か」を意味する。1台のパソコンに特許マップ・ソフトをインストールする費用は10万円未満である。筆者は特許マップ・ソフトを10万円の万年筆と考えている。自由に使いこなせば,自分の頭のコンテンツを自由に表現できる。プロフェッショナルIPI(Intellectual Property Information)アナリストの雛になりたいと願う筆者にとっては,特許マップ・ソフトは「自分への投資の万年筆」と信じている。一方,どのくらいの努力が必要かは,特許マップを扱う経験時間の一里塚である30時間,100時間,300時間を第1段階の目安にしている。特許マップも100時間から300時間あたりの経験時間で,人生観が変わるほど違ってくる。マニュアル・レスが要望される現代なので,逆引きマニュアルが必須と考え,特許マップの研究会でも逆引きマニュアルの作成を提案した。  Know Howとは,「特許マップのノウハウはあるのか,それらノウハウは本当に便利か」を意味する。間違いなく特許マップのノウハウは存在する。特許マップの標準品でなくカスタマイズ品を利用して数千人規模で使いこなしている会社が存在している。特許マップは奥が深い技術である。

2.偉大な尊敬すべきユーザーの存在
 日本知的財産協会と情報科学技術協会の活動を通して不思議な現象に気が付いた。日本に千社近くの大手企業があるが,千人以上の規模の研究開発技術者が特許マップを日常的に使いこなしているのは,その中で数社,すなわち1%以下しかないことである。例えば旭化成工業では,特許マップ「PAT-LIST」を6年以上かけて組織的に教育指導し,数千人の研究者が日常的に活用している。自動車メーカーのN社では,EXCEL型カスタマイズ特許マップを大規模に活用し,作成した特許マップを数千件も登録している。しかし,それらの会社が実状を積極的には公表していないために,他の99%の会社がその特徴と成果に気付いていない。この話に対する大抵の人の反応は「数千人が使っているなんて信じられない。その情報が間違っているのではいか」というものである。
 特許マップの話をそれまでに,どれだけ聞き,また聞き慣れているか,そして理解しようとする意思があるのか,などの蓄積経験時間によって,カラーバス効果が発揮される。カラーバス効果とは,例えば赤いものを見つけようと気に留めていると,こんなにも赤いものが多いのかと思うほど目に留まるということである。転じて,目的を持って意識していれば,自然と目に留まることを意味する。カラーバス効果はその分野を少しでも実践しないと実感できない。そのため,1〜3時間以上,特許マップを直接触る・実践することが「特許マップ導入への第1歩」である。つまり,特許マップを自分に納得させる時間が必須なのである(図2)。

図2:自分を納得させる思考と演習道場への参加
図2:自分の納得させる思考と演習道場への参加

3.異業種の演習道場に参加する意義
 特許マップの研究会に1年間参加して感じたことを述べる。参加者は特許マップの蓄積経験時間が数時間の人から1000時間以上の人まで広く分布し,多様であった。当然,蓄積経験時間が300時間以上の人は,ベテランからの吸収能力が大きく速く,30時間の人は吸収する能力の速度と容量におのずと個人差がでてくる。
 しかし,「百聞は一見に如かず」と「演習により理解度が70%に達する」と「異業種の演習道場でしか味わえないもの」と「継続は力なり」などの相乗効果により,演習道場では孤軍奮闘型の自己啓発・自己研鑽では達成できない早い速度での成長と進化が得られる。「自主的な意思で行動すること」が基本行動指針であり,出る釘を打つ人はいない。まさに特許マップのエリート養成講座の雰囲気である。
 演習道場の最大の特徴は,ギブ・アンド・テイクの自主運営である。筆者も東京農工大学大学院教授の鶴見氏,九州大学情報基盤センター教授の廣川氏,東北大学教授の塩谷氏と直に質問と討論をする機会を得た。貴重な道場経験を自分の体に叩き込ませることができ,幸運であった。異業種交流の勉強会で,これほど産学協同の一体感を感じたことはない。

4.プロフェッショナルIPIアナリストとSEとの協働
 特許マップのシステム改善には,それを実際に活用しているサーチャー(情報検索解析者)・研究者と,特許マップのシステムを開発しているSE(システム・エンジニア)と直談判的要望伝達や討論が必須であると感じた。SEと討論するにはシステム改善の包括的な青写真とシステマチックな論理的説明が必要かつ重要である。つまり,サーチャーとSEが協働することが必須である。協働を通じて「実践型・実務型のシステム改善案」をお互いに理解しあえるからである。サーチャー集団の中にはシステムに精通し,人柄も明るい人の存在が必須である。その意味で,この1年間の勉強会で花王(株)の安藤氏の存在は極めて重要であった。また,周囲の研究会参加者もそのような自分の不足する能力に気付き,安藤氏を意識した行動が見られた。その結果,サーチャーとSEとの協働の相乗効果が具現化した。この延長線上に,プロフェッショナルIPI−アナリストとSEとの理想の協働があると信じてやまない。

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桐山 勉氏 プロフィール
1973年名古屋大学工学部大学院合成化学科博士課程修了後,帝人(株)に入社。
同社において,ポリエステル重合技術,不織布技術,アラミド・パルプ技術,アラミド高強力繊維技術等の開発に従事。
1994年に同社の知的財産部に転勤となり技術情報の調査を担当。1997年サーチャー1級資格を取得し,1999年から2002年まで日本知的財産協会の特許情報検索委員会で活動。その間に,特許庁の技術分野別特許マップ作成委員会の会合にも日本知的財産協会の代表として参加。
技術分野別特許マップの化学分野の2テーマに対し2年間に亘り参画。
2003年より(株)帝人知的財産センターの技術情報グループのマネージャーを経て,2006年2月に同社を定年退職。その後,OB嘱託として部分勤務。
2005年から(社)情報科学技術協会のSIG-パテントドクメンテーション部会のコアパーソンとして,活動中。





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