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【特許マップの実践講座】 第3回
独自評価による特許マップは知財戦略
− CSV形式による加工応用とTRIANGLE連携 −
桐山 勉氏
帝人知的財産センター
OB嘱託
工学博士
桐山 勉氏

 特許マップの実践講座の最終回として,特許マップ活用の応用例を述べる。研究開発の効率を高めるための究極的な方法の1つは,研究者が特許情報にアクセスする時間をゼロにすることである。そして,その延長線上にある「必要な特許情報の整理整頓時間を限りなく短縮する」のが理想である。つまり,研究者が夜間に浮かんだ思いやアイデアを昼間の実験で確認する時間をできるだけ長くするために,特許情報の検索や,検索された母集団の整理を高度IT(情報技術)を駆使して,できるだけ短時間に,しかも簡単に済ませるように工夫するのが,究極の研究開発のスタイルではないだろうか。そのためには,特許マップ・ソフトを使い込む工夫と慣れが必要である。

1.大容量高速回線時代の特許情報検索

 光ファイバ,ADSL,ケーブル・テレビなどの大容量高速回線を経由してインターネットを利用すれば,数十Mビット/秒以上の高速回線速度を得られる時代になった。そのため,1件の平均容量が百数十Kバイトの特許情報を大量に扱うことが容易になった。その結果,特許情報サービス・プロバイダ各社がASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスを実施し始め,ここ1〜2年でASPサービスが常識になりつつある。プロバイダ各社のダウンロード形式も,HTML,CSV,PDF,XML,EXCEL形式などと多種類の形態でサービスされ,しかも,リンク機能を保持したままでダウンロードできるのも一般的になりつつある。
 一方,特許マップ・ソフトもソフト・ベンダー各社から色々なものが市販さている。しかも,1年間でバージョン・アップが複数回おこなわれるのも常識になりつつあるので,サポート契約を結んだ方が良い。
 この環境変化のお陰で,CSV形式でダウンロードしてから,エンド・ユーザーである研究者が自分に合った特許マップ・ソフトにデータを取り込み,自分の評価コメントを自由に入力する選択肢が増えてきた。また,特許マップ・ソフトとCSV形式とEXCEL表の3者間のデータ互換を頻繁に,簡単に日常的に行えるようになった。

2.CSV形式による加工応用(デジタル・ハンドリング)
 特許デジタル情報の収集→加工→解析→報告書へのプロセスをモデル図として示した(図1)。各ソフト・ベンダーとも特許マップ・ソフトとEXCEL表への互換性を標準機能とするようになった。結果,利用者による固有の評価コメントを自由に入力したデータを特許マップ・ソフトにもう1度戻すことが容易になった。

図1:特許デジタル情報の収集→加工→解析→報告書へのプロセス図
特許デジタル情報の収集→加工→解析→報告書へのプロセス図 特定の特許情報に立てられたフラッグと固有の評価コメントを観点軸として用いて,特許マップを再作成することも容易な時代になった。従来は,特許分類コードのIPC,FI,Fターム,および書誌事項だけで特許マップを作成していたが,最近では切り出した技術用語と自分で入力した評価コメントと固有の自社分類を組み合わせた特許マップを作成することも可能になり,特許マップを活用する環境が急速に整いつつある。

3.独自評価による特許マップは知財戦略
 フラッグを立てた特定の特許情報と固有の評価コメントは,エンド・ユーザー独自のものであり,主観的なものである。しかし,何らかの客観的情報に基づいて加えられた情報であるから,客観的に限りなく近い主観的情報であり,極めて付加価値が高い。また,これらの情報は社外から覗き見ることができない社内情報である。つまり,これらのそれぞれが知財戦略に生まれ変わる金の卵の付加価値情報なのである。これらから技術用語と技術観点で切り出した情報を基にして作成された特許マップは,社外の誰にも真似することができない。これらの特許マップをグループで数十個保有し,それらを集約し直せば,それが知財戦略である。
 それでは,これらの知財戦略を容易に作成できるのはどのような環境か,次に述べる。

4.TRIANGLE連携
 ほとんどの企業が特許管理システムと特許情報検索システムの2つを保有・利用している。しかし,特許分析・解析システムの利用は社内のごく一部の人間にとどまり,普及が徹底していないと推定する。ここでは,研究者が必要な特許情報にアクセスする時間を出来るだけゼロにして,得られた特許情報を整理整頓し,集約する時間を限りなく減らすことを主唱したい。図2に,特許管理システムと特許情報検索システムと特許マップ・ソフトを繋いで連携させたモデル図を示した。

図2:TRIANGLE連携と知財戦略構築ツールのモデル図
図2:TRIANGLE連携と知財戦略構築ツールのモデル図
 3角形の各頂点に,それらの3つのシステムを描き,三角錐の共通頂点にエンド・ユーザーである研究者・開発者を配置している。個々の特許情報の明細書は,例えばWebのリンク方式で繋がっているため,3つのシステムを利用する研究者・開発者はLANに接続されたどこからでもいつでも必要な明細書の原報にアクセス時間ゼロで参照できる仕組みを想定している。このような仕組みに加え,各社固有の評価コメントなどの付加価値情報を共有化すれば,素晴らしい共有化システムに生まれ変わる。個々のエンド・ユーザーが作成したコメントを再集約し直せば,共通のコメントに生まれ変わる仕組みである。つまり,エンド・ユーザーの「個人知」が各部署ごとの「集団知」に生まれ変わるのである。このようなTRIANGLE連携を既に稼動させている会社が十数例ではあるが実存すると聞いている。
 2005年にスペインのバルセロナで開催された「INTERNATIONAL PATENT INFORMATION Conference and Exposition」(IPI-ConfEX 2005)において,Nils Newman氏,Paul Frey氏,Katherine Jakielski氏が共同でRapid Technology Intelligence Process(筆者訳:高速技術情報収集プロセス,以下,RTIP)を発表している。可視化された集約結果を用いて,専門家と調査担当者が協働で素早く必要な情報を整理集約することの重要性を主唱している。図2で示した連携システムを利用すれば,RTIPも実行可能であると筆者は考える。

5.プロフェッショナル・デベロップメント
 サーチャー(検索解析者)が周囲から認められるインフォ・プロ(情報プロフェッショナル)に成長するには,志を高く持ち,自己研鑽することが必須である。しかし,各企業の中で孤軍奮闘しても限界がある。今年に入って,ソフト・ベンダー各社でユーザー会や有料セミナーが開催され,教育啓蒙と互学互修の場が提供されつつある。日本知的財産協会(JIPA)や(社)情報学技術協会(INFOSTA)の各種活動に積極的に参加するだけでなく,前述(第2回参照)のように,サーチャー同士のコミュニケーションの場を有効活用して,プロフェッショナル・デベロップメント(専門性自己開発)を実践することを強く薦めたい。
 最後に,必要な基礎知識を習得しながら活躍するプロフェッショナル・サーチャーの増加を期待し,多くのサーチャーが「知的財産推進計画2006」の掲げる「事業戦略−研究戦略−知財戦略の三位一体化」にさらに貢献する時代が来ることを祈る次第である。

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桐山 勉氏 プロフィール
1973年名古屋大学工学部大学院合成化学科博士課程修了後,帝人(株)に入社。
同社において,ポリエステル重合技術,不織布技術,アラミド・パルプ技術,アラミド高強力繊維技術等の開発に従事。
1994年に同社の知的財産部に転勤となり技術情報の調査を担当。1997年サーチャー1級資格を取得し,1999年から2002年まで日本知的財産協会の特許情報検索委員会で活動。その間に,特許庁の技術分野別特許マップ作成委員会の会合にも日本知的財産協会の代表として参加。
技術分野別特許マップの化学分野の2テーマに対し2年間に亘り参画。
2003年より(株)帝人知的財産センターの技術情報グループのマネージャーを経て,2006年2月に同社を定年退職。その後,OB嘱託として部分勤務。
2005年から(社)情報科学技術協会のSIG-パテントドクメンテーション部会のコアパーソンとして,活動中。




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