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【特許マップの実践講座】 第2回
特許マップは3段跳び競技
− U-MAPと交流の場と特許分析解析プロセス −
桐山 勉氏
帝人知的財産センター
OB嘱託
工学博士
桐山 勉氏

 知的財産の関係者だけではなく経営者までが,色々なところで事業戦略と研究戦略と知財戦略の三位一体化の重要性を唱えるようになってきた。しかし,これを実践するには,世界中に公開されている特許情報の分析と解析が求められる。一方,特許マップの活用には,個人的な意識や能力の差が極めて大きく,企業間でもその活用に大きな温度差があるように思える。そこで,今回は,特許マップを有効活用するための方策について述べる。

1.特許マップは3段跳び競技

 筆者は,特許マップを陸上競技の走り幅跳び競技であるホップ・ステップ・ジャンプからなる3段跳びに例えている。最近,特にそれを痛感している。その根拠は,(1)特許マップの一通りの機能を活用するには,一定レベル以上の理解と慣れが必須である,(2)解析者の頭が整理されることで段階的に分析と解析の質レベルが上がる,(3)目標技術の観点に基づいて仮説を立て,特許情報を注意深く見直した場合にのみ,分析・解析は成功につながる,という3段階があるからだ。
 筆者が特許マップの効果の説明をすると,特許マップ・ソフトの機能を理解せず,泥臭い努力もしないまま特許マップの批判をする人に遭遇することがあり,残念に思う。

2.理解度には個人差がある
 過去,筆者は色々なセミナーに参加し,その中で,習得のレベルと理解度の相関についてたずねたことがある。研修講義を聞いただけでは5%,資料を読んだだけでは10%,ビデオ学習教材などを視ただけでは20%,デモンストレーションを一見しただけでは30%,ディスカッションに参加すれば50%,演習に取り組めば70%,人に教える立場になれば80%,実際にプロジェクトとして担当し,ミスを繰り返しながら経験を積めば90%の理解度に達する,ということだった。これは「学びのピラミッド」と言われる。
 特許マップ・ソフトについても,「学びのピラミッド」に沿って論じると,個々人が特許マップ・ソフトの説明を聞き,セミナーに参加して演習し,特許マップ・ソフトを購入するなどして,どれだけ利用した体験と経験を持つかで,特許マップの理解度が異なる。市販されている各種の特許マップ・ソフトのいずれでも構わないので,それらを使い込むことで,まず慣れることを強く薦めたい。単に聞くことの繰り返しでは実践レベルでの質の向上は望めない。

3.特許マップはR&Dの効率化に有効な「U-MAP」
 筆者は「特許マップはR&Dに有効なU-MAP」と主唱している。Uの意味は,(1)Yours only(あなた自身が作成したもの),(2)Useful(役立つもの),(3)Ubiquitous(どこでもいつでも誰でもが行えるもの),(4)Unique(ユニークで独特なもの),(5)Unequivalent(他では見つからないもの)という,ユの発音,またはUのスペルから始まる5つの英単語から名づけた(図1)。さらに3段跳びに例えると,第1段階のホップでは,筆者は時系列推移を注目し,または競合会社について調べている。第2段階のステップでは,各種特許分類コードを用いたり,注目技術や急成長技術に焦点をあて,線から面への分析・解析をしている。第3段階では,非特許情報,特に口コミで得られた情報に対応する特定特許情報にフラッグを立て,他の特許情報より10倍の重みを付けて,「自分の仮説を特許情報で検証すること」が重要であると,筆者の経験から考える。

図1:U-MAPのモデル図
U-MAPのモデル図
 第3段階のジャンプにおいて,仮説をデザインしながら解析し,最終的に知財戦略に結びつけることが,特許マップの最終的な成果である。このように,特許マップは第3段階までレベルが進んで,急激に効果を大きく増幅させる。第1段階・第2段階だけで特許マップが作成できたと錯覚する人には,特許マップの女神は微笑まないのである。

4.「交流の場」の必要性
 特許マップの第3段階に達していない個人または企業では,どうすれば良いだろうか。その解は,ユーザー会や特許分析の有料セミナーなどの演習に参加することで,「第3段階のジャンプとはどのようなものか」を直に体験・経験するのが良い。演習がない説明会に何度参加しても上の質レベルには上がれない。また,プレゼンテーション・ソフトで作成されたような資料を何度見ても,前述の「学びのピラミッド」の理解度の30%を越えることはできない。筆者の経験から,1つの企業で少なくとも3人以上が第2段階を超えないと,その企業における特許マップの利用と普及は難しいと考える。そのため,ユーザー会や特許分析の有料セミナーに複数で参加することを推奨する。
 さて,一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の野中郁次郎氏は著書「知識創造企業」の中で交流の場の重要性を理論的に説明している。また,東京大学先端科学技術研究センター教授の妹尾堅一郎氏は,「知財マネジメントにおける先端人財育成」の解説の中で,セミナーの場における「互学互修」の重要性を主唱している。これら両先生の考え方は,サーチャー(検索解析者)がインフォ・プロ(情報プロフェッショナル)を目指すなど,プロフェッショナル・デベロップメント(専門性自己開発)を実行しようとする際においても,大変参考になると考える。つまり,ユーザー会や有料セミナーなどの交流の場を通じて,互学互修で演習をすることが実践をスタートする秘訣である。

5.特許分析・解析のプロセス
 特許分析・解析は,予備検索から最後に知財戦略ができるまでに,数段階の実務作業から構成される(図2)。この図は「第2回情報プロフェッショナルシンポジウム」(INFOPRO2005)で発表したものである。

図2:特許分析・解析のプロセス(予備検索から知財戦略の作成まで)
図2:特許分析・解析のプロセス(予備検索から知財戦略の作成まで)
 自分なりの仮説をデザインしながら特許マップと明細書を繰返し読み返すことにより,見えないものが見えてくるのが,特許マップの特徴的な効果である。「ローマは1日にして成らず」と同じで,知財戦略はこれらの特許分析・解析の多段階を踏んで,初めて達成されるものである。それなりの努力と集中力が求められる。特許マップの活用が「知財戦略と研究開発戦略と事業戦略の三位一体化」に結びつくことを期待する次第である。

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桐山 勉氏 プロフィール
1973年名古屋大学工学部大学院合成化学科博士課程修了後,帝人(株)に入社。
同社において,ポリエステル重合技術,不織布技術,アラミド・パルプ技術,アラミド高強力繊維技術等の開発に従事。
1994年に同社の知的財産部に転勤となり技術情報の調査を担当。1997年サーチャー1級資格を取得し,1999年から2002年まで日本知的財産協会の特許情報検索委員会で活動。その間に,特許庁の技術分野別特許マップ作成委員会の会合にも日本知的財産協会の代表として参加。
技術分野別特許マップの化学分野の2テーマに対し2年間に亘り参画。
2003年より(株)帝人知的財産センターの技術情報グループのマネージャーを経て,2006年2月に同社を定年退職。その後,OB嘱託として部分勤務。
2005年から(社)情報科学技術協会のSIG-パテントドクメンテーション部会のコアパーソンとして,活動中。




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