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【特許マップの実践講座】 第1回
特許マップは何故必須なのか
− 技術指紋の可視化による気付き促進支援道具 −
桐山 勉氏
帝人知的財産センター
OB嘱託
工学博士
桐山 勉氏

 知的財産推進本部は2006年6月8日に「知的財産推進計画2006」を決定した。この中で,「技術戦略マップを活用した戦略的研究開発を推進する」という企業における質の高い知的財産の創造施策が記されている。そこで,それを実行に移すための具体的な有効手段である特許マップについて述べる。

1.特許マップは何故必須か

 数年前,欧州特許庁主催のEPIDOS(European Patent Information & Documentation Systems)年次大会に参加した。この際,開会の冒頭で大変驚いた。欧州特許庁のロゴマークが音楽と共にクローズアップされると同時に,クリアな男性の声で「特許情報は技術の指紋なり」と英語でアナウンスされた。それまで日本では聞いたことがなかったので,その衝撃は鮮明だった。「特許情報は技術の指紋なり」という音声により,筆者が特許情報の重要性の認識不足を教えられた瞬間だった。
 特許情報とは,請求範囲という日常生活の文章と様相が異なる長い1文で記載されているため,理解とイメージ化が容易ではない。しかも,日常的に読破しなければならない必要件数が数百件と多い。人間の記憶力には個人差が極めて大きく,個々の特許情報を1度読んだだけで約250件程度まで頭に整理して記憶できる人もいれば,筆者のように数十件しか頭に整理して記憶できない人もいる。特に筆者のように,自分の研究開発のためでなく代行調査を担当するインフォ・プロ(情報プロフェッショナル)を目指す人にとっては,この高度IT(情報技術)が進歩した現代における高性能パソコン(PC)と便利なソフト(特許マップ)の手助けを断る理由は全くない。PCと特許マップを頻繁に使う高級文具(万年筆)の1つと見なして,使いこなす努力に日々奮闘中である。
 この2つは,数百件以上の特許情報という技術指紋を可視化することによって,自分にその技術ポジションニングを気付かせるという第1目的を持った促進支援の道具である。

2.さらに具体的な3つの必須理由
 他者(上司と同僚)に説明し,納得してもらうためには,まず自分に気付かせて自分を納得させることがスタート・ラインに立つ前に必要である。早稲田大学大学院教授の遠藤 功氏は,可視化には4つのバリエーションがあると主唱している。筆者の解釈を図1に示した。特許マップによって時系列の推移がグラフ化されるが,描かれたグラフを漫然と見るだけでは十分でない。
 そのグラフに対して疑問を7回繰返し投げかけ,自問自答することが大切である。7回も自問自答することで,自分で考え,工夫するようになる。特許マップを見ながら自問自答することを習慣化することが大切である。これを1週間継続すると,下記の3つの必須理由をおぼろげに感じるようになる。特許マップは,
  1)技術のポジショニングを気付くための道具である。
  2)特許情報の整理・集約の時間を削減し,自分の研究開発の時間を2倍に増やすための道具である。
  3)上司と同僚に,研究戦略・研究新製品戦略・知財戦略の三位一体化を提案するための道具である。

図1:「見える化」の4つのバリエーションの逆台形モデル図
「見える化」の4つのバリエーションの逆台形モデル図

3.特許マップを見ながら気付くべき「本当の5つの理由」
 特許マップを利用して作成した時系列グラフから全体を俯瞰できる図を描くことができる。時系列グラフは1個ではなく5個以上を作成することを強く薦める。できるだけ多くの時系列グラフを作成することによって観える化が実践できるからである。また特許マップには,個々の明細書を参照できるようにカスタマイズ化された特許マップ・ソフトを推奨したい。個々の明細書に頻繁にアクセスすることで技術指紋の視える化診える化が実践できる。50件以上の個々の明細書にアクセスしながら,同時に,特許マップで全体を俯瞰すれば,図1の見える化プロセスが実践でき,頭の中で整理整頓の化学反応が起きて,次の5つの理由がおのずと,浮かんでくる。特許マップ・ソフトを30分以上触って,疑問を投げ,自問自答と明細書チェックを繰り返すと,
  1)アイデアが発掘される。(「ひょっとしたら,こんなことが明細書に書かれていないか」,と気が付く)
  2)アイデアがより具体化する。(明細書の考え方と自分の考え方の違いが分かる気がしてくる)
  3)アイデアが増殖する。(同僚や上司に自分のアイデアを言いたくなる)
  4)特許マップを見ていると,アイデアが刺激され,創造的対話をしているような気になる。
  5)特許マップの効果が実感でき,R&D(研究開発)効率と集約化がレベルアップした気分になる。
 このような泥臭い努力の積み重ねにより,下記の「パスツールの格言」の如く,女神が微笑むと信じる。
 「Chance favors the prepared mind. 偶然(の女神)はよく準備された人にのみ微笑む。」

4.特定の特許情報にフラッグを立てる
 研究開発を約6カ月も継続すると,色々なところから口コミ情報,新聞情報,文献情報などの非特許情報がおのずと耳に入ってくる。これらの非特許情報をこまめに記録に残し,自分の記憶から消え去るのを防ぐことが重要である。さらに1歩踏み込んで,これらの非特許情報に最も近い特定の特許情報に自分のメモと同時にフラッグを立てることが実践であり,研究開発の極意であると筆者は考える。図2に,非特許情報と特許情報を整合させることの重要性を示した。
 得られた口コミ情報・新聞情報・文献情報などの非特許情報を基に,それらに対応すると推定される特定の公開特許情報にフラッグを立て,その明細書群を精読してチェックすることにより,探し求める技術が視えるようになり,さらに読み返すことにより関係する技術が診えるようになる。特に,自分なりの仮説を持って特許マップと明細書を繰返し読み返すことにより,見えないものが見えてくる。「信じる者は救われる」と良く言ったもので,特許マップの効果を信じて実践の努力をすると,次第に特許マップを扱う質的レベルが段階的に向上する。特許マップを扱う経験時間が30時間を超えるあたりから,実感が沸いてくる。それまでは疑心暗鬼の心境で発展途中の段階である。この経験時間が100時間を越える辺りから,偶然の女神の微笑みが信じられる心境になる。さらに,この経験時間が300時間を越える辺りから,特許マップの活用が習慣化されるのである。

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図2:非特許情報を基に,特定の特許情報にフラッグを立てるモデル図
図2:非特許情報を基に,特定の特許情報にフラッグを立てるモデル図


桐山 勉氏 プロフィール
1973年名古屋大学工学部大学院合成化学科博士課程修了後,帝人(株)に入社。
同社において,ポリエステル重合技術,不織布技術,アラミド・パルプ技術,アラミド高強力繊維技術等の開発に従事。
1994年に同社の知的財産部に転勤となり技術情報の調査を担当。1997年サーチャー1級資格を取得し,1999年から2002年まで日本知的財産協会の特許情報検索委員会で活動。その間に,特許庁の技術分野別特許マップ作成委員会の会合にも日本知的財産協会の代表として参加。
技術分野別特許マップの化学分野の2テーマに対し2年間に亘り参画。
2003年より(株)帝人知的財産センターの技術情報グループのマネージャーを経て,2006年2月に同社を定年退職。その後,OB嘱託として部分勤務。
2005年から(社)情報科学技術協会のSIG-パテントドクメンテーション部会のコアパーソンとして,活動中。




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