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インクカートリッジ判決の意味するもの



一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
ハーバード大学ロー・スクール客員教授
相澤 英孝

 11月8日,最高裁判所は,特許製品であるキヤノン社製インクカートリッジの使用済み製品を回収して製造した再生品を輸入・販売した行為が,キヤノン社の特許権を侵害とする判決を下した。廃棄された特許製品を回収して,再生品を製造したり,輸入したり,販売することを特許権の侵害とする判決は当然である。それにもかかわらず,最高裁判所が原審判決を是認する判決をした理由は,知的財産高等裁判所が特許権の侵害とする判決をしたものの,特許製品の再生品を巡り燻り続けていた議論に対して,明確な判断を示すところにあったと推察される。
 この判決により,廃棄された特許製品を回収して,再生品を製造することが特許権の侵害となるので,このような技術を無償で利用して利益を上げるようなビジネスが抑制され,キヤノンのような研究開発型の企業の技術開発投資が促進されることが期待される。
 これにより,研究開発型の企業の研究開発による技術の発展が我が国のこれからの経済発展に寄与することも期待される。最高裁判所は,特許法が技術開発に与える影響を考え,技術開発投資の重要さを重視し,日本経済の将来の発展を考えたものと評価できる。

 この判決により,再生品ビジネスが阻害されることによる消費者への影響を心配する声がないではないが,消費者は,インクカートリッジの使用後,ゴミとして廃棄することを前提として購入しているのであり,再生品に特許権が行使されたとしても,その利益は害されることはない。かえって,このような再生品が流通しないことによって,純正品に比べて性能の劣る再生品を知らずに購入する危険が少なくなるという面もある(キヤノン社がインクカートリッジの再生品を製造しない理由は,その品質を確保できないということにある)。
 なお,再生品の製造を認めることが環境に好ましいという短絡的な議論もあるが,再生品を製造するための外国への運送に消費される資源,環境基準の緩い外国での製造などが,本当に,環境を改善しているかどうかを考えなければならない。特に,環境基準の緩い外国での製造が,どの程度,世界的な環境を悪化させるかを検証することを忘れてはならない。


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