CIPOフォーラム ホームへ 特集 企業戦略 イベント 提言


eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C.事件が
米国特許訴訟に与える影響

eBay Inc. vs. MercExchange, L.L.C.事件の検討(下)
モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 米国弁護士 マックス・オルソン氏
モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所
米国弁護士 マックス・オルソン氏

 前回にて見たように,eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C. 事件判決において米国連邦最高裁判所は,連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判決を無効とし,審理を連邦地方裁判所に差し戻すこととした。その際に,4要素テスト(基準)に基づき恒久的な差止命令の適否を審理するように命じた。
 この連邦最高裁の判断を端的にまとめると,(1)特許紛争において被告に対し恒久的な差止命令を下すか否かの決定は連邦地方裁判所の衡平法(エクイティ)上の裁量権の範囲であること,(2)こうした裁量権は特許係争および特許以外の係争においては典型的な衡平法上の原理に従って行使されるべきこと,が要旨である。

米国連邦最高裁判事が示した「恒久的な差止命令」の現状に対する見解
 連邦最高裁の主任判事であるRoberts氏とScalia氏,Ginsburg氏の各判事は連名で賛成の見解を示した。その趣旨は,(a)特許権保有者に付与される「排他権」は金銭的な賠償だけでは保護が困難なために19世紀以来,裁判所は数多くの特許紛争にて被告が侵害を認めた時点で恒久的な差止命令を下しており,こうした経緯からは,(b)特許権利者に対し恒久的な差止命令を自動的に権利として付与しないこと,(c)恒久的な差止命令を当然の行為と認めるような一般的な原則を正当化するものではないこと,である。加えて裁判所は「まったくの白紙の状態」では典型的な4要素テスト(基準)を適用するべきではないこと,を指摘した。
 同判事のKennedy氏は,Stevens氏,Souter氏,Breyer氏の各判事と連名で,「恒久的な差止命令を当然の行為として認めてきた従来における実践の教訓は,“ある事件の状況が,裁判所がこれまで直面してきた訴訟と実質的に同等である場合に非常に有効であり有益だが,今日的に権利行使されている特許権および特許権者の経済的な機能の本質は従来の状況とは異なり,新しくかつ相違する要素を提起するものである可能性が存在する」とし,賛成の見解を示した。こうした見解は,自らは製品を生産したり販売したりせずに主にライセンス料の獲得にのみ特許を使用する企業が増えており,こうした新しい形態の“産業”が現時点で発展・拡大している状況を念頭に置いている。このようなライセンス活動に主眼を置く企業にとって,恒久的な差止命令は法外なライセンス料を請求するための“交渉道具”になる恐れがある。
 さらにKennedy氏は,「もし特許化された発明が,侵害者が製造した製品のごく一部分のみを構成し,差止命令の脅威が不当な交渉手段としてのみ用いられる場合には,損害補償の方法として金銭的な賠償は十分である可能性があり,その場合は,恒久的な差止命令が公共の利益に反する恐れがある」ことを指摘した。
 このほかにも,ビジネス方法特許に関する潜在的なあいまいさ,あるいは有効性への疑義は,基準となる4要素の適用審査を通じた分析へ影響を与える可能性あるため,恒久的な差止命令は,ビジネス方法特許関連の係争においては不適切である,との見解を示した。結局,特許法が付与する差止命令に関しては,衡平法上の裁量権に基づいて,裁判所は,特許制度における急速な技術革新および法的展開への対応が可能になる。その上で連邦地裁は,「過去の恒久的な差止命令が各々の局面に適合していた否かを判断するべき」との意見を付した。

eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C.事件が米国特許訴訟に与える影響とは
 まとめとして,今回の連邦最高裁判決が今後の米国特許訴訟に対して与えるインパクトを見ていく。  第1に,特許権を濫用して法外なライセンス料などを要求する,いわゆる「パテント・トロール(patent trolls)」の活動を抑止し,また今後はこうしたパテント・トロールによる特許ライセンス交渉や和解交渉での交渉力を削ぐことが可能になると思われる。
 第2に,紛争を通じて権利侵害が認められた場合は,差止命令(排除命令)が保障されている米国国際貿易委員会(ITC)における係争に対する社会的な関心がさらに増大する。
 いずれにしても,権利侵害の疑いのある者が“サイコロを転がした(rolling the dice)”結果,恒久的な差止命令が認められる状況,つまり審理での敗訴の可能性は確実に低減している。その意味では,こうした特許侵害係争の発生や審理については,特に前出のKennedy氏がその見解で示した種類の事件を中心に増加傾向が強まる,と予測される。

表1:eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C. 事件判決後,差止命令の不認可事例(2006年11月20日現在)
事件名 概 要
z4 Techs., Inc. v. Microsoft Corp., 434 F. Supp. 2d 437(E.D. Tex. 2006) Microsoftが,特許権を侵害する技術を,同社のソフトウエアのほんの一部分にしか使用していなかったという事実に基づき終局的差止命令を認めなかった
Paice LLC v. Toyota Motor Corp., 2006 U.S. Dist. LEXIS 61600(E.D. Tex. Aug. 16, 2006) (i)原告は被告の被疑車両と市場シェアを争っていないこと,および (ii) 侵害クレームは被告の車両全体のなかではほんのわずかな価値しかないことを挙げて終局的差止命令を認めなかった
Voda v. Cordis Corp., 2006 U.S. Dist. LEXIS 63623(W.D. Okla. Sept. 5, 2006) 原告が,〔自身にとって〕「回復不能な損害,あるいは金銭的賠償では不十分であることのいずれか一方を証明することができず」,eBay事件に照らしても,これらの要因の存在が推定されないことにより終局的差止命令を認めず却下
Finisar Corp. v. DirecTV Group, Inc., 2006 U.S. Dist. LEXIS 76380(E.D. Tex. July 7, 2006) 原告が特許を実施していなかったことにより終局的差止命令を認めず; 差止命令に代わり強制実施権を与える


表2:eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C.事件判決後,差止命令の認可事例(2006年11月20日現在)
事件名 概 要
3M Innovative Props. Co. v. Avery Dennison Corp., 2006 U.S. Dist. LEXIS 70263(D. Minn. Sept. 25, 2006) eBay事件を引用し,原告が一貫して特許のライセンス供与を拒絶したことを理由の一つに終局的差止命令が認定される
Litecubes, L.L.C. v. Northern Light Prods., Inc., 2006 U.S. Dist. LEXIS 60575(E.D. Mo. Aug. 25, 2006) 原告が特許を実施したということ等を理由に終局的差止命令が認定される
TiVo Inc. v. EchoStar Communs. Corp., 446 F. Supp. 2d 664(E.D. Tex. 2006) 原告が特許を実施したということ等を理由に終局的差止命令が認定される − 現在CAFCにおいて審理中で差止命令は保留
Rosco, Inc. v. Mirror Lite Co., 2006 U.S. Dist. LEXIS 73366(E.D.N.Y. Sept. 28, 2006) 原告が特許を実施したということ等を理由に終局的差止命令が認定される
American Seating Co. v. USSC Group, Inc., 2006 U.S. Dist. LEXIS 59212(W.D. Mich. Aug. 22, 2006) 終局的差止命令の認定
Wald v. Mudhopper Oilfield Servs., 2006 U.S. Dist. LEXIS 51669(W.D. Okla. July 27, 2006) 原告が特許を実施したということ等を理由に終局的差止命令が認定される





| このフォーラムについて | INDEX | 日経BP知財Awareness | 産業イノベーション | テクノアソシエーツについて |