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第2回CIPOフォーラム座談会(3)
難しい海外での模倣品被害額の算定

[2008/11/17]


 海外で商標模倣品への対応に苦しむ日本企業は多く,その対策も企業ごとに様々である。特に消費者の生命に関係する商品を扱う企業は,費用対効果を度外視してでも模倣品を市場から追放しようと活動している。CIPOフォーラムはこのような商標の諸問題に関し,弁護士,公認会計士,弁理士といった知財の専門家が意見を述べあう座談会を開催した。そこでは,現地企業との交渉や権利行使の難しさ,被害額の算定の難しさなどが指摘された。

【参加者】(50音順)
三好内外国特許事務所 芦田望美氏
西村あさひ法律事務所 岩瀬ひとみ氏
アーンストアンドヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 (EYTAS) 大岡考亨氏
三好内外国特許事務所 鹿又弘子氏
西村あさひ法律事務所 木村剛史氏
新日本有限責任監査法人 関 大地氏


司会:中国で日本の地名「青森」が商標登録されるという問題が発生した。その後取り消されたが,その後,よく似た「青E」を別企業が商標登録しているのが見つかった。こういった問題についてはどう考えるか。

芦田氏:「青E」と「青森」は“外観”は似ていると思うが,中国語の読みや意味がまったく異なるなどの事情があるかもしれず,日本人が判断するのは難しい。商標の類否(類似するか否か)判断はその国の言語や文化や流行などにも大きく左右されるものである。また,商標の類否問題は別として,「青森」に対する「青E」のように,重要な市場については他者に使用してほしくない範囲を防衛的に出願しておく方法もある。国内の例であるが,時計「G-shock」については,防衛的に「A-shock」から「Z-shock」まで登録されている。

司会:海外でこれからビジネスを計画しているが,現地で商標を出願していなかったため,現地企業に商標を登録されてしまった双葉社の「クレヨンしんちゃん」のような事例がある。こういった場合,どのような対処法があるのか。

芦田氏:(1)現地企業の商標登録を異議,取消請求,(2)現地企業との交渉,とを個別にもしくは平行して行うことが考えられる。(1)の取り消す根拠として,(ア)日本企業の商標が中国で著名であったことを主張する方法,(イ)中国で既に使用され一定の影響力を有する商標が不正な手段及び悪意によって登録されたことを主張する方法,などがある。しかし,こちらがビジネスする前に現地企業がビジネスを始めている場合,「商品がすでに有名であり,市場に浸透していた」という根拠を揃えるのは難しい。また「悪意」などの主観的要素を立証するのは困難となることが予想される。交渉についても,現地企業から厳しい条件を要求されたり,中国での商標をもとに日本企業の商品の中国への輸出を差し止めてくる場合もある。

岩瀬氏:中国国内での問題については,基本的には中国の法律や手続で対処するしかない。中国の法律がどのようになっているかはきちんと調べてみないとよく分からないが,例えば漫画の場合は,一般的に著作権法や不正競争防止法,あるいは民法上の不法行為に基づく請求などを使っての対処も考えられるのではないか。相手が中国国内で満足して,海外へ進出する気がないと使えないが,海外に進出してくる場合にはその進出先の国の法律でも対処できるだろう。

鹿又氏:中国における日本の地名が第三者により商標登録されている問題については,日本政府が中国政府に働きかけるとの報道がなされている。自分の商標は自分で守ることが基本であり大切なことであるが,商標の盗用問題についても運用改善が図られるよう,政治レベルでの対応をしてもらいたい。
 こうした事態を予測して問題が起こる前に情報発信できなかったのは残念である。今後は,重大事態に発展する可能性のある問題が予測される場合,積極的に情報発信していきたい。

関氏:日本企業が海外で模倣品の被害にあった時,企業に与える(直接及び間接的な)影響を具体的に金額で評価することは極めて困難である。影響額を具体的に評価するためには,(@)模倣された製品の具体的数量と模倣により販売機会の喪失に伴う損害額,(A)模倣行為によって引き起こされる“企業・製品ブランドも含めた企業全体への直接・間接的な影響”,などを総合的に考慮したうえで影響額を評価する必要があるだろう。
 具体的には,“自社が模倣行為に直面せずにビジネスを展開している”という前提で,“どれだけの市場占有率が見込めたのか”,“どれだけ売り上げが見込めたか”,などを推定し,これと実際の販売状況等を比較して影響を見積もることも1つのアプローチである。ただ,このようなアプローチも実務的には相当の困難を伴うだろう。

岩瀬氏:模倣品の場合,一般の流通経路に流れることは少ないだろう。そういった事情も被害額の算定を困難にする要因の1つかもしれない。

司会:企業を取材していると,模倣品対策は企業の信念によって行動が異なるのを感じる。“徹底的に排除するタイプ”と“取りあえず様子をうかがうタイプ”である。

関氏:費用対効果を考えているのだろう。「模倣品対策にかける費用を投入して市場をどれだけ取り戻せるのか」が明確でなければ具体的なアクションを取りづらい企業もあるかもしれない。

司会:徹底的に排除するタイプは,消費者の生命に大きく関係する商品を扱う企業に多い。例えば,日産自動車は模倣品のブレーキパッドなどが重大な交通事故を引き起こし,企業の評判を落とす可能性があるとして,様々な手段で模倣品対策に取り組んでいる(関連記事)。

鹿又氏:商標制度は,企業の信用を守ると同時に消費者の安全や利益を守るためのものである。商標を守ることは企業の社会的責任を果たすことにもつながる。そのような基本的認識に立ち返れば,商標の保護に対する企業の姿勢も変わっていくのではないか。



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座談会の様子
座談会の様子


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