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第2回CIPOフォーラム座談会(1)
商標に対する日本企業の認識不足が明らかに

[2008/11/10]


 商標は,あらゆる産業において重要な知的財産である。商標は企業の信用を保護するための制度であり,企業・商品ブランドはすべての企業に存在するからである。このように重要な商標であるが,その重要性について理解している企業は多くない。特に中小・ベンチャー企業についてはその傾向が顕著である。CIPOフォーラムはこの問題に対し,弁護士,公認会計士,弁理士といった知財の専門家が意見を述べあう座談会を開催した。今回は,商標に関する企業の認識向上と出願前調査・出願・登録の重要性についての提言である。

【参加者】(50音順)
三好内外国特許事務所 芦田望美氏
西村あさひ法律事務所 岩瀬ひとみ氏
アーンストアンドヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 (EYTAS) 大岡考亨氏
三好内外国特許事務所 鹿又弘子氏
西村あさひ法律事務所 木村剛史氏
新日本有限責任監査法人 関 大地氏


司会:日本企業は知財に関する意識が高まってきている。しかし,特に商標に関しては,出願前調査をせずに出願したり,“そもそも出願しない”といった例を見受ける。こういった商標に関する企業の行動について,専門家の立場から意見を述べてほしい。

三好内外国特許事務所(左:鹿又氏・右:芦田氏)
三好内外国特許事務所
(左:鹿又氏・右:芦田氏)

鹿又氏:技術開発に投資する企業は開発の成果を保護するために特許出願を行うことは一般的だが,商標は全産業に関わるものであり裾野が広い。それだけに,商標の出願前調査(商標調査)の必要性について関係者が十分に理解していない企業がまだまだ多いように感じる。
 商標のネーミングで,その分野で好まれそうな既存の言葉そのものを採択した場合,第三者がすでに権利を取っていることが非常に多く,実務上,商標調査で半分程度がふるい落とされるように感じる。言い換えれば,半分は,そのまま使用すると侵害のリスクがあることになる。第三者の商標権を侵害すると,損害賠償請求や差止請求などを受ける可能性がある。商標の怖いところは,ビジネスが小規模で目立たない間は大きな問題になることは少ないが,成功して市場規模が拡大し露出度が高まると,それだけ侵害が顕在化し警告を受けるリスクが高まり,損害賠償も時には非常に高額となる点である。差止めにより企業への信用を積み上げた商標が使えなくなれば,企業は営業上大きなダメージを受ける。
 商標登録は“先願主義”であり,先に使用を開始していても他人が先に出願していれば権利化ができない。したがって,出願前調査によって第三者が登録していないことが分かったら,速やかに出願する必要がある。商標は業務やサービスの種類ごとに区分されており,区分を指定して商標を取得する。自社の業務内容と将来予定している事業などを考えて,必要な商品・サービスを漏らすことなく指定して出願することをお勧めする。出願費用は数万円で済むが,第三者に取られた商標を交渉などで取り返す(買い取る)には,より多くの費用と時間がかかる。したがって,事前の調査・出願が非常に重要である。

芦田氏:“選択物”である商標の保護対象は「商標に化体した信用」である。商標それ自体ではない。そのため「信用が化体していない」つまり「周知著名化していない」商標を他者が故意に登録しても,商標法上は問題とならない。権利行使された場合には,たとえ先に使いはじめていたとしても抗弁できない。外国で自社商標が先に登録され,取り返すのが難しいという問題が生じているのもこのためである。自社商標を守るという意識を持つことが重要である。

西村あさひ法律事務所(左:木村氏・右:岩瀬氏)
西村あさひ法律事務所
(左:木村氏・右:岩瀬氏)

岩瀬氏:私はベンチャーの支援なども比較的多くしているが,技術やサービスに新しい名称を付けた場合には,ものによっては商標出願をするようアドバイスしている。ベンチャーは,小さい組織であることが多く,ビジネスを海外展開するうえで国内外の企業とアライアンスを組むことも少なくない。そのようにして海外展開する場合,アライアンス先による展開先の国も含め,商標出願をしておく必要がある。海外でビジネスをする場合には,商品や企業の名称を現地の言語で表記する必要があり,商標戦略を立案する際にはこれらにも留意する。
 ベンチャーの場合,製品数も多くなく,製品名と社名が同一の場合などもある。このような場合で,他社が類似の商標について既に登録をしていたことが判明したような場合には,思いきって社名も含めて製品名の変更を検討することもある。

芦田氏:海外で商標を取得する際は,制度の違いに留意する必要がある。日米で大きく異なる点は,米国では“使用”によって商標権が発生すると考えられているため,原則として“使用”が登録の重要な要件となることである。権利の更新時にも使用証明を提出する必要があるので,商標を使用していない状態では商標権を維持することが困難な制度となっている。
 EU(european union:欧州連合)では,出願しても先行登録との抵触を審査することなく登録するのが特徴である。つまり,EUで商標権を有していても,抵触する商標が登録されてしまう可能性がある。この点から,権利登録後も定期的に第三者の商標出願を調査し,異議申立をして登録を阻止するなどの対策が必要となる。
 国内,海外共通であるが,「強い商標」とは,既存の言葉の組み合わせではなく“SONY”や“XEROX”のような独創的商標であると言われている。類似の商標が少ないため,登録しやすいうえに権利範囲が広い。しかし,実際に商標の候補としてあがってくるものは,その業界で好まれそうなイメージのよい言葉やその組み合わせが多く,独創的なものは少ない。強い商標と売れる商標とのせめぎ合いがあって悩ましいところである。

岩瀬氏:ユニークな造語であっても,特に海外で現地の言語で表記したような場合に,出願前調査で類似するものが見つかる場合がある。

鹿又氏:世界的に統一ブランドを展開する場合,事前の商標調査が欠かせない。ある大手自動車メーカーは,全世界で統一の商標を使用するために,世界数十カ国で出願前調査を行い,権利化できる商標を絞り込んで商標出願をしている。同時期に広範囲に調査し出願することはそれなりの費用はかかるが,ビジネスの障害を最小限に抑えるために望ましい施策である。

司会:ベンチャーの商標に関する意識はどれほどのものなのか。

岩瀬氏:ブランドを大切にしている大企業であれば,当然意識をしていることが多いと思うが,ベンチャーの場合,社内の知財担当者や社外のアドバイザの存在が意識に影響すると思う。社外の専門家などがアドバイザとしていれば意識は高いこともある。


木村氏:私の主たる取扱分野であるM&A取引においては,依頼者による買収対象会社がベンチャーや中小会社であることもある。その場合には,自社の主力製品・役務について商標を出願していなかったり,他社の登録商標と同一・類似の標章を使用してしまっていることが法的監査の結果判明することがある。この場合,M&A取引の実務では,契約書の“誓約条項(注1)”や“表明保証条項(注2)”などを工夫して,依頼者が買収対象を取得する時点までに買収対象会社にその標章に関する問題を解決させておくなどといった手当てをしておくことになる。だが,依頼者にとってその標章の使用を確保することが重要な場合において,買収対象会社が十分に商標の問題を解決できなかったときは,M&A取引が破談してしまう可能性もある。このような局面でも商標の取り扱いが重要となることも意識して,普段から商標の適切な取り扱いを心がけておく必要があろう。
新日本有限責任監査法人 関氏・EYTAS 大岡氏
新日本有限責任監査法人 関氏
EYTAS 大岡氏

大岡氏:弊社は,M&Aに伴う財務報告目的の無形資産価値評価サービスを提供している。当該サービスは最終的な買収コストを会計処理する際に,これまで被買収企業の貸借対照表(balance sheet:B/S)に計上されていなかった特許権や商標権などの無形資産を識別し,その価値を算定するものである。M&A以外の目的でも商標権を評価することがあるが,その際問題となったのは無形資産の真の権利者が誰なのかということであった。オーナー企業では,商標権の登録名義人がオーナー,企業で混在していることが多い為,税務上の価値の帰属先について問題が発生することがある。


注1:誓約条項とは
きちんと登録をしなさい,あるいは第三者からライセンスを受けなさい,などといった対応を売主や対象会社に義務付ける条項である。
注2:表明保証条項とは
知財に関する問題がない,あるいは使用する標章についてきちんとした権利を持っているということを売主や対象会社に確認させる条項である。
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座談会の様子
座談会の様子


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