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CIPOフォーラム座談会第2部(1)
ベンチャーは知財権の取得だけでなく事業化やライセンスを意識した活動を

[2008/03/10]


 「日本のベンチャー経営者は,知財権の取得だけでなく,事業化やライセンスといったEXITを考慮して活動する必要がある」知財Awareness編集部は日本のベンチャーのEXITにおける知財の重要性をテーマにした「CIPOフォーラム座談会」を開催した。座談会には弁護士,公認会計士,弁理士といった知財の専門家が参加し議論を展開した。本記事は座談会第2部の内容を2回に分けて掲載するものである。第1回目の今回は,ベンチャーにとっての知財の重要性や,アライアンスの重要性についてである。

【参加者】(50音順)
新日本監査法人 今井靖容氏
  西村あさひ法律事務所 岩瀬ひとみ氏
  アーンストヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社(注 大岡考亨氏
三好内外国特許事務所 高橋俊一氏 高松俊雄氏


司会:日本におけるベンチャーの育成と発展はうまくいっていない印象がある。ベンチャーを起業したが,その後の活動が停滞しているベンチャーが多くあるように感じる。上場を目指すのがベンチャーの目標であるといわれているが,最近ではM&A(merger and acquisition:企業合弁・買収)も選択肢の1つといわれるようになってきた。

岩瀬氏:私はベンチャーの支援とその周辺業務を比較的多く取り扱っており,「ベンチャーがどのようにEXITするのがよいか」は常々考えている。EXITと一言でいってもその考え方はその局面によって異なる。ベンチャー立ち上げ時の事業計画策定の段階でのEXIT,上場できるほど成長してからの段階でのEXIT,上場が困難であることが判明した場合のEXIT,などである。またEXITを考える際には,投資家,従業員,取引先など様々な利害関係者をも考慮する必要がある。このようにEXITを決めるには様々な観点が必要になる。
 上場以外のEXITとしては,企業を丸ごとまたは部分的に売却するM&A,知的資産の売却,他社への知財ライセンス,などが考えられる。いずれにしても,買い手がいなければ売却できない。したがって,日常から企業価値を高めておくことが重要である。
 一般的にベンチャーはブランド力がないので,重要な財産は,特許権など知財権である。知財権とはビジネス分野での優位性を担保するものなので,その知財権を使って競合他社の参入排除や参入遅延を図ることが重要である。そのためには,基本特許を中心とする群として知財ポートフォリオを整えることが重要になる。個々の知財権の売却は通常は最後の選択肢だろう。このように知財戦略を正しく実践していくことによって企業価値を高めてIPO(initial public offering:新規株式公開)を目指す。あるいは,M&AによりEXITを図るのが一般的だろう。

大岡氏:日本企業が米国のベンチャーを買収するケースが増えてきたが,会計上の観点からベンチャーを買収する際に留意すべきことは,現在の米国会計基準ではスタートアップ段階のベンチャーの業務は事業と認められていないことである。その場合,会計上は“事業の取得”ではなく“資産の取得”と整理される。買収(取得)原価は全て資産・負債に配分され,いわゆる“のれん”は発生しないことになる。

高橋氏:新しいビジネスに進出する際に自社だけで要素技術を揃えるのは効率が悪い。欲しい技術は買えばいいという時代になってきた。この場合,購入先の企業の規模は関係ない。このため,ベンチャーであっても他社が欲する技術があればオープン・イノベーションのパートナー,自社に権利があればライセンサー,にもなれる。また技術提携するなど様々な手段もある。ベンチャーが知財をいかに創出し,活用しているかがEXITの方向性に強く影響するだろう。
 これから知財権を保有しようとするベンチャーは,まず理想のEXITを定める必要がある。,限られた資源の中で他社と協業することによって事業に有利な知財権を取得することが成功の鍵になる。この作業によってベンチャーにとって理想のEXITが自ずと見えてくるのではないか。
 
高松氏:ビジネスがグローバル化しているので,知財もグローバルに考える必要がある。かつて日本企業の海外への特許出願は米国と欧州が主体であったが,最近は米国に次いで中国への出願が急増している。インドは時期尚早といった感があるが,ベンチャーもEXITを意識して出願国を選択することが重要ではないか。

高橋氏:海外企業と業務提携先する可能性も十分にある。その場合は,その企業がある国家やターゲットとしている市場で知財権を取得していないと意味がない。

司会:知財ポートフォリオの重要性が出たが,顧客にどのようにアドバイスしているのか?

高橋氏:最近は大学からの特許出願が増えている。分野はバイオ・化学・材料などだ。これらの分野は1つの強力な基本特許を取得すれば周辺特許はそれほど重要ではない。一方,情報処理技術などは1つの基本特許だけでは事業化は不可能に近い。基本特許の周辺を特許で固めなければ事業は難しい。大学は特許出願に関する予算が少ないことが多い。そんなときは「周辺特許に関しては提携先を見つけて共同出願してはどうか」とアドバイスしている。ベンチャーも大学と同様である。限られた資源を特許出願に費やしていると事業の進展が難しくなる。適切な提携先企業を見つけて,事業化の過程において共同で周辺特許を固めていくのが現実的である。提携先企業の規模としては,中小企業クラスが理想的だろう。1社と独占的に提携するのではなく,数社と提携する。これらが拡大していくことで標準化の話などに発展する可能性もある。

岩瀬氏:大学は通常自分で事業を起こさないから,他社との提携は大学にとって有効な手段である。
 現状,一般的なベンチャーは1社あたりの特許出願件数は必ずしも多くない。コストとの関係もあるので,“その技術でどういう業界でどういうことがしたいか?”といった要点を押さえた上で,戦略的に鍵となる基本特許や周辺特許を確保する必要がある。コストはかかるが,投資家に知財戦略を理解してもらえれば,必要な金額の投資をしてもらうこともできるだろう。

司会:投資家に理解してもらうための無形資産の見せ方は?

大岡氏:例えば,ベンチャーが自社技術に関して特許権を取得すれば,投資家は客観的に技術が確立したと判断するだろう。その上で実際に事業化が可能であることを投資家に示す必要がある。せっかく開発した技術も事業化の機会がなければ経済的な価値を持たない。開発後は,自社で活用する,他社にライセンスする,などをあらかじめ十分に検討しておくことが重要だろう。

司会:ベンチャーの場合,技術が商品になっていない場合が多い。新市場開拓の可能性などの事業計画の信頼性はどのように判断するのか?

大岡氏:まず,計画の前提条件が市場予測と整合しているかを確認する。当該技術で本当に製品化が可能なのか,市場に受け入れられるのか,について第三者である専門家の意見なども取り入れて,事業計画の妥当性を総合的に判断することになる。

今井氏:ベンチャーの知財の評価は低く算定されることが多いと聞くがどうか?

高橋氏:ベンチャーの所有する知財権は数件の場合が多い。かといって個々を評価していくのは非常な困難な作業である。弁理士は定性的な評価はできるが,活用に関してはベンチャー責任者のポリシーが多分に絡んでおり評価は難しい。評価が低くなるというのはあるかもしれない。

岩瀬氏:評価が低くなるのは,ベンチャーは実績がないという事情もあるだろう。大企業であれば“この技術をこう製品に結びつけたことがある”といった実績があるから評価がしやすい。ブランド力がないことも評価に影響するかもしれない。特に日本の官公庁は,米国に比べてベンチャーの技術を積極的に使おうとしない。まず,米国企業に対して自社技術をアプローチし,業務提携などで実績を積んでから日本に展開するというのも有効な手段だろう。

高橋氏:バイオや化学の分野の場合,他の技術分野に比べて特許権の価値がハッキリしている。当業者がこの特許をみれば技術の素晴らしさが一目瞭然なことが多く評価しやすい。一方,ITや電機などの分野の場合,1つの製品を作るのにいくつもの特許を組み合わせる必要があるので評価は簡単ではない。

注)大岡氏の所属するアーンストヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社は,新日本監査法人の関連子会社である。M&Aにかかる様々なサポートサービスを提供している

CIPOフォーラム座談会第2部 (),(
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座談会の様子
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