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CIPOフォーラム座談会第1部(2)
企業は知財の利用状況を常に把握しておく必要がある

[2008/03/06]


 知的財産や研究開発力の取得を目的としたM&Aが増加している。知財Awarenessは,各社への取材から「M&Aにおける買収対象企業のデュー・デリジェンスは知財部の重要な業務の1つであるが,デリケートな問題であり取り扱いが難しい」といった意見を聞くことが多かった。知財Awareness編集部は,この問題に対し,弁護士,公認会計士,弁理士といった知財の専門家が意見を述べあう座談会を開催した。そこでは,M&Aにおいて知財デューデリが必要になってきた現状と正確なデューデリのために,企業と各専門家がチームを組んで当たることが必要なことが浮き彫りになった。連載2回目の今回は,知財権の分析や価値評価手法についての議論である。

【参加者】(50音順)
新日本監査法人 今井靖容氏
  西村あさひ法律事務所 岩倉正和氏
  アーンストヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社(注 大岡考亨氏
三好内外国特許事務所 高橋俊一氏 高松俊雄氏


司会:前回(連載1回目),オープン・イノベーションの考え方が変わってきたとの発言があった。われわれも取材から経営者の意識が変わってきているのを感じる。しかし,現場レベルになると他社技術に否定的な人たちがいることも事実である。技術や知財を主眼に置いたM&A(merger and acquisition:企業合弁・買収)は増えているのだろうか。

岩倉氏:自分が担当している分野からしかいえないが,意識が変わってきたのは事実である。グローバル化の流れの中で企業が存続していくためには意識しなくてはいけない,という経営者が増えてきた。現場はそうではないという話だが,経営者の意識が強くなれば現場にも伝わっていくだろう。現場もそれなりに意識は持っている。
 他方,自社知財の強みをアピールしたい面もあると思うが,逆に「何のためのM&Aか」という考えに立つと自社のことばかりはいっていられない。
 企業による他社知財権・ライセンス状況の分析は非常に慎重になっている。知財を主目的としたM&Aは,製薬業界・食品業界では増えていると感じるが,化学業界では増えているという実感はない。松下・日立・東芝・ソニーなどの電機業界などでも様々な特許があるのでM&Aは増えていくのではないだろうか。全体的には増えていくだろう。

司会:M&Aを加速させるためにはどういったことが必要なのか。

岩倉氏:M&Aが増えればいいということではない。意識の向上という点では大岡先生の指摘のように,日本企業は貸借対照表レベルで無形資産をどう評価するかという点は慣れていない。最近はDCF(discounted cash flow:ディスカウント・キャッシュ・フロー)の考え方が普及している。純資産や類似業種比準方式などと組み合わせるのが,プライシングやバリエーションの面では多いだろう。キャッシュ・フローの面では知財自身やライセンスからキャッシュ・フローを意識する面は強くなっている。弁護士は価格の交渉自体に関与することは少ない。しかし,M&Aの交渉などに同席すると知財からキャッシュ・フローが本当に生まれるのか,知財が承継できるのか,権利は有効なのか,という話がでることがある。
 これに貸借対照表上の無形資産の評価が加わるので,否応なく知財を意識しなければならないだろう。そういった面で欧米企業は,日本企業に比べて知財を含む無形資産の評価に慣れているといえる。日本でも無形資産の評価に関して欧米のような風土が醸成されれば,知財に対してのより強い意識が生まれるのではないだろうか。

司会:資産評価の知財を収益面で評価して貸借対照表に反映させる,という指摘があった。しかし実務的には非常に難しいという企業が多い。知財部や法務部も扱い難く,踏み出し難いという話を取材で聞くことが多い。価値評価についてどのように進めていけばよいのか?

大岡氏:知財を評価する方法としては,一般的に(1)マーケット・アプローチ,(2)コスト・アプローチ,(3)インカム・アプローチ,という方法がある。(1)は比較対照とする知財を取り上げることが難しい。(2)における再構築コストは,これまでかけたコストが必ずしも現在の価値に見合うかどうかは議論がある。したがって,使用されることは少ない。この結果,(3)を選択することになるのだが,インカム・アプローチでは将来収益を現在の価値に割戻して算出するので,当該知財に帰属する収入,利益を特定する必要がある。したがって,各企業はある特許技術が実際にどの製品に使用されているかを把握しておくことが望ましい。

司会:販売のインフラが整っている企業は知財から多額の売上が発生する。インフラが整っていないを持っていない企業の場合,多額の売上が見込めないなど,企業によって知財の価値が変わってしまう場合もあるかもしれない。この場合,どのように知財を評価するのか?

大岡氏:誰の立場で評価するかによってその価値は異なる。ある知財をどうしても必要な企業であれば,その知財を活用した収益計画を持っているはずなので,当該収益計画を用いてインカム・アプローチで評価する。それがその企業独自の価格となる。
 一方,売り手側から見ると,実際に収益に貢献している知財であれば価値評価は容易だろう。休眠特許のように使用されていないものでも他社で使用価値があるのであれば,やはり買手サイドの視点で価値を見出していくことになる。

高橋氏:一般的に大企業ほど多くの権利をもっている。そのすべてを評価はできない。先程は収益面から評価をしなければいけないといった反面,多くの特許を個別に評価するのは不可能に近い。M&Aに先立つ知財に関する評価について「買収対象企業が有する知財が相対的にどれくらい強いのか」といったの相対的な評価(絶対的な評価ではなく)がなされていれば,評価としてはある程度達成していると思うがいかがだろうか。やはり全体的にどれだけの収益が見込めるのかという評価をした上でないとM&Aの可否判断はできないのだろうか。

大岡氏:大量の知財の価値を個々に見ていくのは事実上困難である。現実的なアプローチとしては,企業の経営戦略を把握すれば,競争力のある知財は浮き彫りになるはずである。その競争力のある知財の価値を評価しておけばよいだろう。また弱い事業分野部分にも知財は存在していると思うが,これは必然的に価値が低いものになるだろう。特に保有しておく必要がなければ他社に譲渡もしくはライセンスするという方法もあるだろう。

高橋氏:クロスライセンスの考え方に近い。

司会:M&Aの現場ではこのような話は出てくるのか?

岩倉氏:業態と知財の形態によって違う。エレクトロニクス分野では1つの製品を作り上げるのに多くの知財が必要であるので個々の知財を見ることはできない。会社全体もしくは事業部門を買うときに個々の知財を見ないということもあるだろう。製薬事業では特許数が少ない場合が多い。この場合,重要な特許については個々に評価する必要がある。
 企業や商品などのブランドの場合,個別に評価するということはなくても,防御商標も含め,これらのブランドをどれだけ守れるのか,どれだけ承継できるのかを見る。全体というよりは,比較的個別に知財を見る。知財の種類によっても見方はかなり異なる。ケース・バイ・ケースということではないが,ある程度の分類はできると思う。商取引の目的によって評価・交渉の仕方も変わってくるというのが私の意見である。

高松氏:知財の価値評価に関して弁理士がどのように関わるかと考えると,権利の安定性の面で,先行技術と比較して権利が有効かどうかを判断するのは弁理士の仕事ではないだろうか。特許の場合,請求の範囲が権利の強さになる。請求の範囲に基づいて権利の広さや強さの評価ができるだろう。個々の特許は評価できないのではないかという話があったが,パテントマップによる一群としての特許の評価は有効な手法の1つである。技術は改良によって枝分かれして,そこに特許が生まれる。パテントマップによって鍵になる特許は何か,などの評価をすればその特許の位置付け(重要性)が分かる。

今井氏:M&Aの完了後,知財の評価は最終的に決算書に財務数値として現れる。買収するときには評価算定において様々な方法でチェックする。実務的には,最終的に出来上がったものはほとんどを“のれん”として一括計上し,20年以内に償却するというのが現状である。
 今後,日本の会計基準に国際会計基準が適用され,のれんが時価評価になると,のれんが積極的に評価されるようになるだろう。評価されれば減損も出てくるだろう。日本の公認会計士協会は,欧米とともに国際会計基準を適用する方向で動いている。しかし,日本の一部の会計学者には,のれんについて今日の日本の実務慣行の方が,客観性のないもの(ただし,毎期時価評価で減損会計適用だが)を延々と減損リスクをもって計上していくよりは,20年や15年,10年というようにM&Aの取得案件ごとに適正な回収期間を決めて償却していくという現状の会計処理がいいのではないか,という意見もある。
 しかし,これは少数意見になりつつある。なぜこんな議論が起こるかというと,のれんの評価による数値の客観性が担保されていないからである。「よく分からないならば償却して少しでも早く会計上の評価額をゼロにしたほうが評価減のリスク回避となるのでよい」という会計の保守的な考えが根本にある。のれんを客観的な方法により識別,分解して評価していくのが本来の望ましい姿である。

司会:時価評価について理論上しっかりと評価するのは正しいと思うが,個々を厳密に評価する実務上,公認会計士の業務が非常に煩雑になるおそれがある。人的資源などを鑑みると,現実的なのか。それともどこかで破綻してしまうものなのか。

今井氏:M&Aの規模・件数にもよる。件数が増えるとのれんの評価の監査工数も増える。今まで20年以内で会社が決めて監査法人がOKを出していた従来のスタイルと比べ,将来的に国際会計基準に統一されていくと,毎期の時価評価が必要になり監査工数は増える。これに加えて2008年からJ-SOX(日本版SOX法)による内部統制監査制度化が適用されることで,上場企業,監査法人は大変な状況にある。今後はこれにプラスアルファになる可能性があるだろう。
 会計監査上,一定のルールに基づいてやることになるだろう。減損会計の一環としてルール化すれば実務的には対応可能である。破綻することはないだろう。
 M&Aでは,最終的に客観的な評価がどうなのかが重要であるが,主観的判断要素が入るおそれがある。これが公認会計士にとって大きな監査リスクとなり得る。自社と同程度の規模の会社を買収する事例が増えてきているが,買収後,その企業の業績が急落した場合にどうなるのか?という問題がある。これは,会社の決算の損益に影響を与えると同時に,のれんの評価に影響が出る可能性があり,監査リスクが高まることになる。

大岡氏:ちなみに,新日本監査法人の監査先企業がM&Aを行う場合,子会社であるわれわれは監査の独立性の観点から当該企業に評価業務を提供できない。同業他社が当該M&Aで取得した無形資産や知財の価値を評価し,監査手続きの一環としてそれをレビューする場合もある。

注)大岡氏の所属するアーンストヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社は,新日本監査法人の関連子会社である。M&Aにかかる様々なサポートサービスを提供している

CIPOフォーラム座談会第2部 (),(
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座談会の様子
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