CIPOフォーラム ホームへ 特集 企業戦略 イベント 提言


CIPOフォーラム座談会第1部(1)
必要になったM&Aの際のデューデリに企業と各専門家の連携で精度を高めよ

[2008/03/03]


 知的財産や研究開発力の取得を目的としたM&A(merger and acquisition:企業合弁・買収)が増加しており,買収対象企業のデュー・デリジェンスにおける知財部の重要性が高まっている。しかし現場からは「デリケートな問題であり取り扱いが難しい」という悩みをかかえているところも多い。この問題に対し,弁護士,公認会計士,弁理士といった知財の専門家が意見を述べあう座談会を開催した。そこでは,M&Aにおいて知財デューデリが必要になってきた現状と正確なデューデリのために,企業と各専門家がチームを組んで当たることが必要なことが浮き彫りになった。

【参加者】(50音順)
新日本監査法人 今井靖容氏
  西村あさひ法律事務所 岩倉正和氏
  アーンストヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社(注 大岡考亨氏
三好内外国特許事務所 高橋俊一氏 高松俊雄氏


岩倉氏:2007年,製薬事業で大きなM&Aが2件あった。両件ともに私が担当していた。その際,知財の取り扱いは,デリケートなテーマの1つだったと認識している。弁護士の視点から,M&Aには2つの側面があると思う。(1)クラウン・ジュエル(Crown jewel:買収対象企業の最も魅力的な資産の意味)としての知財,(2)偶発債務の原因としての知財,である。
 (1)に関しては,これをどうやって確認するか,商取引によってライセンス権や知財が失われないか,などを考える必要がある。(2)に関しては,買収対象企業の債務などの責任を引き継ぐ場合があるので,オフバランスシートを含めた偶発債務を認識しないまま承継してしまうことに注意する必要がある。例えば,他社の知財権を侵害しているような企業やその財産を取得してしまうことによって責任まで引き継いでしまう場合などである。このような問題を防ぐため,他社の知財権を侵害していないか,契約に違反しないか,などを確認する必要がある。
 弁護士や公認会計士,弁理士,他のアドバイザーがデュー・デリジェンス・レビュー(due diligence review:資産の適正評価)をしっかりするということはM&A取引において重要なことである。積極サイドでは,知財権がその商取引にとって非常に重要であるならば,デュー・デリジェンス・レビューを通じて個々の知財を正確に特定すべきである。この際,登録されていれば確認しやすいが,登録されていない場合もある。また包括クロスライセンスなどでは,どの知財がライセンスされているかよく分からない場合もある。
 極端な問題の例では,私自身の数年前の経験であるが,テレビでコマーシャルを放送しているほど有名な商品の商標権に関するライセンスが,長期間にわたって原権利者とライセンシーの間で書面になっていなかった例があった。それをどのように移転するのか,というのが大きな問題になった。
 その他の問題の例としては,ライセンス契約に“Change of Control(支配権の変更)条項”がある場合がある。これは製薬企業に多い。この条項は,M&Aによって対象会社の支配権が変わった場合に,ライセンスが解除されるというものであり,これによって獲得できると見込んでいた権利が手に入らないということが往々にしてある。実際,この問題に関連する訴訟がこの数年で数件発生している。ライセンシーを買収する場合などに多く見られるが,このような問題が起きないことをデュー・デリジェンス・レビューを通じて確認する必要がある。デュー・デリジェンス・レビューの際は,対象会社の顧問弁護士などに確認できるようにすることが重要である。さらにこのような確認ができない場合は,専門家のセカンドオピニオンを得る,対象会社の契約相手に確認するといったことで対処することが重要である。武田薬品工業の秋元氏が指摘している「買収対象企業の秘密情報へのアクセス」(参考記事1)は,デュー・デリジェンス・レビューにおけるネガティブ・サイドとして留意すべき問題だと思う。
 これらの作業を通じて,M&Aに関する契約書を作る。契約書には(i)Reps & Warranties (表明保証)条項,(ii)Indemnification(補償)条項,(iii)Covenants(誓約)条項,(iv)Conditions Precedent(前提条件)条項,の4つを入れる必要がある。
 (i)は知財に関する問題がない,あるいはきちんとした権利を持っているということを売主あるいは対象会社に保証させる条項である。(ii)はそれが問題になって損害が発生した場合の補償条項である。(iii)はきちんと登録をしなさい,あるいは第三者から確認を取りなさいという条項である。(iv)は上記3つが履行できなかった場合を契約の停止条件とする条項である。
 M&Aにおいて知財の重要性は,これからもますます高まっていくだろう。弁護士だけではなく弁理士,公認会計士,税理士,アドバイザーなどと協力してデュー・デリジェンス・レビューを積み上げていくべきと考えている。

大岡氏:M&Aにおける買収対象企業や事業の価値算定では,4つの問題を意識するようにしている。(a)買収交渉段階から知財価値を意識すること,(b)研究開発活動にかかる会計問題,(c)ライセンス時の知財価値評価の問題,(d)改正産業活用法への留意,である。
 (a)に関しては,ここ数年M&A完了後の会計処理である“取得原価配分(Purchase Price Allocation:PPA)”という業務が急増している。このPPAとは,取得(買収)企業が取得(買収)価額を取得した資産・負債に配分する作業である。取得であるので,資産・負債を時価(公正価値)で評価することになるが,買収価額には相乗効果などによるプレミアムをつけることが多い。いわゆる“のれん”を認識することになる。ただし,米国会計基準や国際会計基準では,プレミアムにのれんだけではなく買収対象企業が潜在的に保有するブランドや知財,営業基盤なども含まれるので,これらをのれんから分離して無形資産として計上することを求めている。日本では必須ではないが,株主や利害関係者にM&Aの正当性を説明する必要がある。よって,買収交渉段階からこれらを意識しておくことが望ましい。
 (b)に関しては,日本では2006年4月から企業結合会計基準が適用された。米国・国際会計基準では無形資産の計上は必須であるが,日本の会計基準では任意となっている。研究開発活動に関する会計上の取り扱いも異なる。研究開発活動が極めて重要な製薬企業などでは,M&Aの際に買収対象企業が保有する無形資産を適切に把握する必要がある。
 (c)に関しては,海外企業は平時から知財価値を把握した上で知財を戦略的に活用している。一方,日本企業は一部を除き,自社知財の価値に関してあまり議論していないように感じる。買収時になって自社の知的財産の価値に気付くのではなく,平時からその経済的価値を把握して積極的に活用方法を検討することが必要である。
 (d)に関しては,日立製作所がパソコン事業から撤退するという報道があった。日本企業はアジアの新興企業に単なる価格競争力では太刀打ちできない現実がある。したがって日本企業は付加価値の高い製品を作ることが求められている。そういった点で,このような国の支援は一定の評価が出来る。しかし,税制などの優遇措置が与えられる一方,引き続きROA(Return on Assets:総資産利益率)の改善などの条件が付与されることから,この新産業活用法がどの程度利用されるかは非常に興味がある。

高橋氏:M&Aは会社ごと買う,すなわち技術基盤やのれんなどを丸ごと自社に取り込むという施策である。われわれはM&Aに直接関わることはないが,顧客からライセンス戦略を採れないかという相談を受けることがある。松下電器工業社長の中村邦夫氏は「これからのM&Aは知財や技術ノウハウを対象に考えるべきで,事業を買うという時代ではない」と発言している。知財の価値は企業をM &Aに走らせる要素,あるいは成功させる要素の1つとしてクローズアップされている,と認識している。
 実際,企業がある事業を実現するためにすべての要素技術を自社で開発する時代ではなくなった。「オープン・イノベーション」に代表される,他者が必要な技術を持っていれば買ってきたり業務提携すればよい,という考え方が増えている。その延長線上にM&Aですべてを買ってしまおうという考えが出てくるのだろう。この点で,買収対象企業の知財価値を正確に把握することは重要なことである。「平時から自社の知的財産の客観的な経済的価値を把握しておくことが望ましい」ことは買収する側,される側の双方にいえる。
 知財は,“知財そのものの質”すなわち優位性・安定性といった定性面と,特許件数などの定量面という2つの側面から評価されることが多い。松下の中村氏は知財について“事業の収益面”からの評価が重要だとのことだが,特許事務所が単独で知財を評価することは難しい。今後は,弁護士や公認会計士といった専門家と連携しながら知財の価値評価をする場面が増えるだろう。特許の有用性・強さ・安定性といった定性的な評価は収益面の評価を行う上で欠かせない前提である。弁理士としてはこういった定性的な評価をしっかりする必要がある。
 今後はM&Aにまったく関与しないということではなく,以上の観点から関わっていくことになるだろう。

注)大岡氏の所属するアーンストヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社は,新日本監査法人の関連子会社である。M&Aにかかる様々なサポートサービスを提供している

CIPOフォーラム座談会第2部 (),(
CIPOフォーラム座談会第1部 (),(

座談会の様子
座談会の様子


| このフォーラムについて | INDEX | 日経BP知財Awareness | 産業イノベーション | テクノアソシエーツについて |