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米国訴訟対応に不可欠な電子文書管理の実務的課題とは
FRCP改正に伴い,米国弁護士やフォレンジック専門家らが指摘

[2007/05/24]

 米国における民事裁判に関する諸事務を規定する連邦民事訴訟手続規則(FRCP:Federal Rules of Civil Procedure)が2006年12月に改正された。米国内に進出した日本企業においては今回の改正への実務対応が急務になっている。特に米国訴訟に特有のDiscovery制度(訴訟に関連する社内文書の開示義務)に関連して,電子情報の取り扱いと日常的な管理が大きな課題として浮上してきた。

Discovery技術は米国訴訟対策に限らず日本国内の内部統制にも適用できる
 この問題について詳しいレイサム アンド ワトキンス外国法共同事業法律事務所,外国法事務弁護士(ニューヨーク州弁護士)の吉田大助氏は,米国で事業活動を行う日本企業に対し,「従来のDiscoveryとは大きく異なる“eDiscovery”への対応が不可欠であり,情報収集や分析に要する費用と時間の増加や電子メールや電子情報の保全など新しいリスク要因を認識するべきだ」と警鐘を鳴らす。
 同氏は「米国訴訟(eDiscovery)への対応〜FRCP改正に際して」と題したセミナー(東京都内,2007年3月7日開催)における講演において,一般的なeDiscoveryのワーク・フローを示し,(1)弁護士との相談,(2)証拠保全(「訴訟ホールド」),(3)情報収集・開示に伴う法律問題の検討(社内での管轄,プライバシー保護など),(4)開示日程や電子文書の保存形式などに関する訴訟相手側との事前交渉,(5)開示義務対象となる文書と無関係な書類などの分別と例外的に開示しなくてもよい訴訟関連文書(Attorney-Client Privilege)の確定,(6)費用の分担や開示の不備に関する交渉,をポイントとして示した。もし開示に不備があった場合には,罰金や相手側の訴訟費用の負担がペナルティとして課された上に,「裁判官の心証を悪くし,不利な推定を受けたり欠席判決が下ったりする可能性があるほか,意図的で悪質な場合は新たに偽証罪等が適用される可能性がある」(同氏)。
 吉田氏は,(a)書類保存規則を更新し実行すること,(b)日常から訴訟のための証拠保全を準備しておくこと,(c)訴訟の可能性が生じた場合は早期に弁護士と相談しDiscoveryの計画を立案し実行すること,(d)Discoveryの不備によって敗訴となる恐れや刑事責任を問われる恐れがあることについて社内全体の意識を高めること,が企業にとって必要であると結論付けた。特に(c)に関しては,知的財産部門や法務部門だけでなく社内のIT担当部門などの役割が重要であり,新しい技術ソリューションの導入が有効な対応の1つであることを強調した。「Discovery技術やノウハウは米国訴訟対策に限らず日本国内の社内内部統制にも適用できる」(吉田氏)。

コンピュータ・フォレンジックの第一人者,守本正宏氏が実務課題を指摘
UBIC社代表 守本正宏氏
UBIC社代表 守本正宏氏
 コンピュータに対する科学捜査・鑑識である「コンピュータ・フォレンジック」の日本における第一人者であるUBIC社代表の守本正宏氏は,eDiscoveryへの実務的な問題点を指摘した。
 まず,eDiscovery(電子データ/証拠開示)とは,証拠開示の対象が電子的な情報であること。すなわち,E-mail,コンピュータ上に保存されている文書,イントラネットに保存されている文書,およびこれらから削除された文書,電子データも含むということが説明された。そして,電子データを取り扱うことによるeDiscovery特有の問題点を(1)膨大で広範囲な検索範囲,(2)各PC内の電子情報の整理・確保に要する時間,(3)電子メールの添付ファイルなど圧縮されたり付随したりする電子情報の検索の困難さ,に大別した。

(1)膨大で広範囲な検索範囲
 ITの進化によって証拠開示の対象となる電子情報は膨大な量となる。企業で利用されている最近のPCのデータ容量は約40GBあり,その10%(4GB)がワード,エクセル,PDFといた文書類で占められる。これは紙の書類に換算した場合,小型トラック4台分に相当する。

(2)各PC内の電子情報の整理・確保に要する時間
 そうした巨大化したPC内のデータを証拠として開示するには,各電子ファイルの存在場所を特定,整理し,一覧表として作成する必要がある。しかし,紙の書類を整理するような従来の処理方法では物理的に対応不可能。しかも,デジタルデータはもともと揮発性が極めて高く,PCを起動させただけで,記録されたデータが改変され,証拠価値そのものが失われてしまう。PC内のデータの証拠価値を保全しながらeDiscoveryを行うためには専門知識と専用ツールが必要となる。

(3)電子情報の検索の困難さ
 eDiscoveryでは,電子データを検索できる状態で開示する必要があるが,電子メールを例にとれば,ビジネスマン一人あたり数百〜数千通の電子メールを所有しており,添付ファイルも数多く存在する。圧縮ファイルなどは,そのままでは検索をかけることができないので解凍する必要がある。添付ファイルや圧縮ファイルの抽出には専用ソフトウェアを使用するが,データ量が多い場合,解析装置を複数台使用して数時間かかる場合もある。

 こうした作業を効率的かつ確実に実施する上では,専門家の支援を受けたり,一連の作業を一括してアウトソーシングしたりすることが有効である。ノウハウのない自社内の要員だけでの開示情報の取りまとめは作業上で多くの困難を伴うことが多く,さらに作業方法や保全するべき情報などに不備があった場合は,eDiscoveryの法的要件を満たせず,結果的にさらなる訴訟リスクが発生する。「eDiscoveryを完璧に実行するためには,企業は弁護士やフォレンジック専門会社と連携することが望ましい。証拠となる文書の保全準備や情報の分類など基本は企業が主であるが,実際の作業や高度なIT専門性を要する領域では専門家の助力の積極的な受け入れがポイントになる」(守本氏)


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