CIPOフォーラム ホームへ 特集 企業戦略 イベント 提言

スペシャル・インタビュー:
戦略的アライアンス,技術標準化と知財戦略が果たす役割
富士通 経営執行役/法務・知的財産権本部長 加藤幹之氏(3)

[2006/09/25]

 「知的財産戦略」,「知的財産最高責任者(CIPO)」などのキーワードを通じて企業経営と知的財産のあり方を論じる過程で,識者の多くは知的財産を「企業活動や事業の基盤にするべき“強み”,情報・経験の蓄積」と定義した上で,知的財産経営とは「目新しさなどを“売り”にする表層的な一過性の経営モデルではなく,むしろ,その本質は企業の根元的なミッションや事業そのものに深く結び付いている」と強調する。
 こうした識者の1人,富士通の経営執行役/法務・知的財産権本部長の加藤幹之氏は,知的財産業務を含む同社の法務全般を経営の立場で担う,まさに知的財産経営の体現者といえる。13年間に及ぶ米国ワシントンD.C. 事務所駐在などから得たグローバルなビジョンと強いリーダーシップ,業務に留まらずインターネットや電子商取引政策,科学技術政策など公的な制度議論において数多くの有益な提言を行ってきた構想力は,富士通が先進的な知的財産経営の実現する上で重要な役割を担ってきた。
 経営を切り口にした知的財産活動と戦略構築の重要性を中心に,同社が進める知的財産活動のコンセプトを加藤氏に聞いた。加えて同本部・知的財産戦略室長の亀井正博氏が実務上の具体的課題を指摘し,知的財産経営の全体像を読み解く。全4回連載の第3回である。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)
加藤幹之氏
富士通 経営執行役/法務・知的財産権本部長
加藤幹之氏

戦略的アライアンスの重要性と知的財産が果たす役割
2006年9月15日,「イノベーション・ジャパン 2006」(東京国際フォーラム)にて講演を行う加藤幹之氏。
 われわれは知的財産の活用手法として,(1)戦略的アライアンス,(2)標準化推進活動,(3)経営戦略への参画,(4)ライセンスの状況,(5)「技術営業(編注:技術を他分野へ応用しライセンスを供与することの富士通における呼称)」,(6)知的財産紛争,に力を入れている。いずれも自社の姿勢だけでなく他社との関係が重要な意味を持つため,知的財産戦略上も複雑で高度な対応を要する。
 従来,知的財産実務上のアライアンス活動としては,保有する特許の相互利用などを認めるクロス・ライセンスが主要な位置を占めてきた。近年は経営的な要素が加わり,長期的な事業成長を視野に入れた「戦略的アライアンス」の必要性が高まっている。共同研究開発の促進や新規事業分野への共同参入などの機会が増え,実務上も権利ベースのクロス・ライセンスに留まらない多様化が進んでいる。
 われわれの事業を例に挙げると,ハード・ディスク・ドライブ(HDD)事業において日本国内外のメーカーと複数のクロスライセンスを締結し,特許など権利を通じた協力関係を築いてきた。近年は事業基盤の強化を図るため,個々の技術領域における綿密なアライアンス構築に新たに注力している。例えばHDDの磁気ヘッド領域ではTDKとの戦略的アライアンス構築を進め,既存技術のクロス・ライセンス契約に加え,新技術の共同開発を2004年に開始した。米Cornice Inc. との戦略的アライアンスでは,共同開発を進めた結果,われわれはコンシューマ向けの1.8インチ市場に2006年に参入した。
 クロスライセンス活動と戦略的アライアンスの締結に関する知的財産活動では,他社とのネゴシエーション(交渉)が重要である。しかし,交渉の成否を裏付け,最終的に決定する要素は,両社ないしは各社が保有する技術や知的財産の「強さ」と「集積量」である。つまり,換言すると厳しい交渉やクロスライセンスに十分耐えうる強固な特許ポートフォリオの存在が最大の要因となる。当社のHDD事業では,同分野の技術に関して日本国内外で出願中あるいは登録中の1,500件以上の特許権によってポートフォリオを組成しており,これがアライアンス活動における当社の「切り札」的な存在である。
 特許ポートフォリオは,特許が直接関与するクロス・ライセンスの局面だけでなく,戦略的アライアンスにおいても大きな影響力を持つ,不可欠な要素である。確かに,アライアンス活動では連携相手との友好的な「WIN−WIN」の関係構築が重要な目的になるが,こうしたアライアンスは,必ずしも「50/50」あるいは「全参加企業が対等」といった力関係の均衡を必須の前提条件にしていない。つまり,企業や事業の規模,技術力,保有する知的財産の強さといった諸要素がアライアンスの内部構造や力関係には作用しており,同時にそれはアライアンス後の参加企業間の事業優位性,あるいは活動のイニシアティヴを決定付けていく。

重要性が高まる技術標準化への対応
 戦略的アライアンスの大型版あるいはより高度な対応を要する局面として,規格や技術の標準化活動が存在する。こうした標準化への即応は,事業のグローバル化において新市場の開拓や確保に欠かせない重要な事業活動であり,近年は標準化技術の中に個別の企業や団体が保有する特許などの知的財産権が含まれる場合が増えてきたことから,標準化対応は知的財産戦略上も主要な課題に位置付けられている(関連記事)。
 当社の事業の核の1つである情報技術(IT)分野では,特に主要技術や規格の標準化が盛んである。標準化技術は事業化や市場参入などに作用することに加え,技術標準の策定段階において自社技術や特許などを包含することは,将来の事業優位性の確保において大きなアドバンテージになる。また,「パテント・プール」などの活動においては,ライセンス収入の確保が見込まれる(関連記事)。
 われわれは法務・知的財産権本部を中心に各事業部門の標準化担当部門との連携を図るワーキング・グループ(WG)を組成し,グループ全体の標準化活動に対応している。事業分野によっては複数の標準化技術に対応すべき場合や,反対に1つの標準化技術が複数の当社事業分野に跨る場合などが起こりうるため,臨機応変に,そして全社統一的な対応を図るべくWG制度を採用している。2006年現在,われわれは次のような主要な標準化活動へ積極的に参画している(表1)。

表1:富士通が参画する主な標準化活動
標準化団体
活動内容
富士通の活動
ISO(国際標準化機構)
ITU(国際通信連合
マルチメディア符号化規格の標準化団体 H.264のベースとなるMPEG-2(DVD,デジタル・テレビ放送),MPEG-4Video,MPEG-4audioの規格に関し,必須特許を取得。
3GPP(3rd Generation Partnership Project 2) 移動体通信規格の標準化団体 標準仕様に採用される必須特許認定へ向けた提案活動を重視。
RSi(ロボット・サービス・イニシアティブ) サービス・ロボットのインターフェイス規格に関する標準化団体 本団体の立ち上げメンバーとして参画。ロボット間の通信や制御に関する仕様策定に積極的に関与。
出所:富士通提供の資料に基づき編集部が作成。


オープン・イノベーションへの期待と課題
 最近は,イノベーション(技術革新)の創造という観点からも,上述のような方法にLinuxのオープンソース化などに代表されるコミュニティ・ベースのイノベーションを加えた「オープン・イノベーション」への期待が高まっている。
 ただし,ここで留意すべきは,「オープン」という言葉が使われていても,「コモンズ」のような例外を除き,「知的財産を自由に使える」ことを意味するのではない,という点である。さらにコモンズの場合も,例えばGPL(General Public License:Linux所定のライセンス条件)やクリエイティブ・コモンズはあくまで契約的解決であり,特許権や知的財産権などの知的財産権が放棄されたものではない。加えて,こうしたフレームワークに参加しない者が権利を主張する場合もある。
 知的財産権から見たオープン・イノベーションへの課題としては,(a)権利の帰属やライセンス条件といった契約上の知的財産の取り扱い,(b)知的財産の価値評価,(c)知的財産権の保護のバランス,がある。特に(c)については,IT化,デジタル化の進展に伴い,デジタル著作権やソフトウエア特許の保護範囲といった問題においても共通する課題である。
亀井正博氏

法務・知的財産権本部知的財産戦略室室長
亀井正博氏

【加藤幹之氏インタビュー】|  ||  ||  ||  |


加藤幹之氏 プロフィール
1977年,東京大学法学部卒業。1985年12月,ミシガン大学ロースクール修士課程修了。
1977年,富士通株式会社入社。1989年8月,ワシントン駐在員事務所に赴任。
2002年6月,帰国後,法務・知的財産権本部長代理(兼)輸出管理本部長代理。
2003年6月,法務・知的財産権本部長。
2004年6月,経営執行役 (兼)法務・知的財産権本部長 (兼)安全保障輸出管理本部長。このほか,ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)理事などを歴任。
現在,日本経済団体連合会知的財産委員会企画部会・部会長を務める。


| このフォーラムについて | INDEX | 日経BP知財Awareness | 産業イノベーション | テクノアソシエーツについて |