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スペシャル・インタビュー:
「経営型」特許ポートフォリオを中心にした知的財産戦略
富士通 経営執行役/法務・知的財産権本部長 加藤幹之氏(2)

[2006/09/21]

 「知的財産戦略」,「知的財産最高責任者(CIPO)」などのキーワードを通じて企業経営と知的財産のあり方を論じる過程で,識者の多くは知的財産を「企業活動や事業の基盤にするべき“強み”,情報・経験の蓄積」と定義した上で,知的財産経営とは「目新しさなどを“売り”にする表層的な一過性の経営モデルではなく,むしろ,その本質は企業の根元的なミッションや事業そのものに深く結び付いている」と強調する。
 こうした識者の1人,富士通の経営執行役/法務・知的財産権本部長の加藤幹之氏は,知的財産業務を含む同社の法務全般を経営の立場で担う,まさに知的財産経営の体現者といえる。13年間に及ぶ米国ワシントンD.C. 事務所駐在などから得たグローバルなビジョンと強いリーダーシップ,業務に留まらずインターネットや電子商取引政策,科学技術政策など公的な制度議論において数多くの有益な提言を行ってきた構想力は,富士通が先進的な知的財産経営の実現する上で重要な役割を担ってきた。
 経営を切り口にした知的財産活動と戦略構築の重要性を中心に,同社が進める知的財産活動のコンセプトを加藤氏に聞いた。加えて同本部・知的財産戦略室長の亀井正博氏が実務上の具体的課題を指摘し,知的財産経営の全体像を読み解く。全4回連載の第2回である。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)
加藤幹之氏
富士通 経営執行役/法務・知的財産権本部長
加藤幹之氏

事業展開との一体化は知的財産戦略の基本であり本質だ
 優れた知的財産活動や知的財産戦略の実践とは,「企業ビジネス・ライン全域において各々の社員が知的財産に対する意識を備えて業務に臨むこと」,そして,「このような姿勢が企業内に浸透すること」だと思う。それは新奇さや目新しさを強調するものではなく,むしろ事業の本質や基本姿勢を突き詰めることが大切である。その意味で特許出願は知的財産活動の根幹であり,知的財産部門が果たすべき役割と責任は極めて大きい。
 本連載の第1回で述べたように,われわれは知的財産活動において事業に対する貢献や適応を第一に考えている。特許戦略においても,事業化に即した特許の「生産」,創造を重視している(図1)。

図1
図1
 具体的には,(1)現在の主力事業における製品・サービスに関する事業基盤的な技術,(2)将来の事業領域として有望視される先端的技術,を重点としたグローバルな特許化活動を推進している。例えば以下のような事業において重点テーマ領域に設定している。
 第1に,「手のひら静脈認証装置」に関する技術では,日本の国内外で120件以上の特許を出願中である。これらの技術は金融機関のATM,セキュリティ・ゾーンの入退室管理,電子行政,医療システム,旅客システムなどに利用されており,近年は需要が急速に高まっている。知的財産戦略上も,利用場面や事業分野を綿密に検討しつつ,体系的な権利化に取り組んでいる。さらに製品の特性上,セキュリティの保護が最重要であるため,機密性が高く公開できない技術については「ブラックボックス化戦略」を徹底している。
 第2に,旗艦製品であるサーバーについては,特にプロセッサ,バス・アーキテクチャの各領域に関して日本国内外で年間600件以上の特許を戦略的に出願している。
 第3に,光伝送技術分野では,われわれは次世代の超高速光伝送技術の早期市場投入を目指しており,関連する技術について日本国内外で年間250件以上の特許を出願している。
 第4に,次世代ネットワーク(WiMAX,「3.5世代」携帯電話機器など)の研究開発および事業化活動では,新技術の特許化に加え,通信や半導体分野で積み重ねてきたわれわれの実績と「強み」を生かすべく既存の保有特許や自社技術を戦略的に集約し,グローバルな技術標準化活動に積極的に参画している。
 第5に,半導体微細化技術(45nm以降)に関しては,研究部門や事業部門と知財部門の連携を強化しつつ,将来の事業拡大を見据えた権利取得活動を恒常的に実施している。最近は,歪みSi(シリコン)の応用,配線,プロセス,低消費電力などの分野に注力している。2005年度は約60件の特許を出願しており,2006年度はこの実績値を上回る件数を目標としている。

事業活動のグローバル化に対応し,2005年度の外国出願は約7,000件に
 事業環境のグローバル化に対応して,われわれは近年,海外での特許戦略を強化している。2006年現在,全世界で約84,000件の特許を登録・出願している。従来の日本,米国,欧州に,近年は中国を加えた「4極」が海外特許戦略上の要所になっている(図2)。

図2
図2
 こうした特許戦略の傾向は,出願の件数に表出している。1996年以降,日本国内での出願が年間4,000件前後で推移しているのに対し,外国出願の延べ件数は年々増えており,2005年度実績は約7,000件/年となった(図3)。近年,中国などを含むアジア・オセアニア地域の出願が急増している。

図3
図3

事業性の評価に主眼を置いた「特許ポートフォリオ」を世界規模で構築
 われわれは,知的財産活動や知的財産戦略の立案活動において「特許ポートフォリオ」の構築を「戦略のための戦略」に位置付け重視している。ポートフォリオ(事業最適化のための組み合わせ)を組成する際の評価軸は,あくまで「事業」である。
 研究開発活動などにおいては,「自社・他社が保有する特許」,「先行技術」,「研究開発中の技術」などを評価の基準にする「技術ベース」の特許ポートフォリオが利用されてきたが,われわれは「経営観点から事業基盤の安定化」,「市場の将来成長性」,「競争優位性」などを分析・検討し,ポートフォリオを組成する。この意味では,むしろプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)などの方向性やコンセプトに近い「経営型」の性質を持つ。
 こうした特許ポートフォリオは経営資源の配分や意思決定の基準になり,さらに(a)研究開発活動の戦略テーマ設定と権利化の強化,(b)特定の事業領域に留まらない応用を視野に入れた出願内容の工夫,(c)事業環境の変化に適応する出願後のレビュー(再評価)やブラッシュアップ,など知的財産活動へのフィードバックにおいても有益である。
亀井正博氏

法務・知的財産権本部知的財産戦略室室長
亀井正博氏

【加藤幹之氏インタビュー】|  ||  ||  ||  |


加藤幹之氏 プロフィール
1977年,東京大学法学部卒業。1985年12月,ミシガン大学ロースクール修士課程修了。
1977年,富士通株式会社入社。1989年8月,ワシントン駐在員事務所に赴任。
2002年6月,帰国後,法務・知的財産権本部長代理(兼)輸出管理本部長代理。
2003年6月,法務・知的財産権本部長。
2004年6月,経営執行役 (兼)法務・知的財産権本部長 (兼)安全保障輸出管理本部長。このほか,ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)理事などを歴任。
現在,日本経済団体連合会知的財産委員会企画部会・部会長を務める。


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