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スペシャル・インタビュー:
トップの理念,リーダーシップ,構想力が知的財産経営の成否につながる
富士通 経営執行役/法務・知的財産権本部長 加藤幹之氏(1)

[2006/09/15]

 「知的財産戦略」,「知的財産最高責任者(CIPO)」などのキーワードを通じて企業経営と知的財産のあり方を論じる過程で,識者の多くは知的財産を「企業活動や事業の基盤にするべき“強み”,情報・経験の蓄積」と定義した上で,知的財産経営とは「目新しさなどを“売り”にする表層的な一過性の経営モデルではなく,むしろ,その本質は企業の根元的なミッションや事業そのものに深く結び付いている」と強調する。
 こうした識者の1人,富士通の経営執行役/法務・知的財産権本部長の加藤幹之氏は,知的財産業務を含む同社の法務全般を経営の立場で担う,まさに知的財産経営の体現者といえる。13年間に及ぶ米国ワシントンD.C. 事務所駐在などから得たグローバルなビジョンと強いリーダーシップ,業務に留まらずインターネットや電子商取引政策,科学技術政策など公的な制度議論において数多くの有益な提言を行ってきた構想力は,富士通が先進的な知的財産経営の実現する上で重要な役割を担ってきた。
 経営を切り口にした知的財産活動と戦略構築の重要性を中心に,同社が進める知的財産活動のコンセプトを加藤氏に聞いた。加えて同本部・知的財産戦略室長の亀井正博氏が実務上の具体的課題を指摘し,知的財産経営の全体像を読み解く。全4回連載の第1回である。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)
加藤幹之氏
富士通 経営執行役/法務・知的財産権本部長
加藤幹之氏

富士通グループにおける知的財産戦略と知的財産経営の理念
 われわれが取り組んでいる知的財産戦略の構築と,その実践である知的財産経営は,(1)事業の競争優位性の確保,(2)事業の自由度の確保,(3)事業収益の確保,が本質的なミッションである。創出する製品やサービスについては市場での効果的な差異化を図る一方,他社との戦略的アライアンスやオープン・コラボレーションなどの経営局面では,連携しつつも「富士通らしさ」や強みを生かした協働や事業展開を実現する。これらの活動は,各事業の収益向上を実現しつつ,例えば実施料を獲得できるような知財自体の収益化や,積極的な「技術営業(編注:富士通では技術を他分野へ応用しライセンスを供与することをこう呼ぶ)」の展開によって,知的財産の価値向上ひいては企業価値の向上へと結び付けていかなくてはならない。

 同時に,知的財産に関する社会的責任,ガバナンス(内部統制),コンプライアンス(法令遵守)の実行について,企業として当然に果たすべき責務として認識している。われわれは企業理念,“The FUJITSU Way”の中に定めた行動規範の1項目に,「知的財産の保護」を掲げている。ここでいう「知的財産」には,われわれが保有する知的財産だけではなく,他社あるいは他者が有する知的財産も含んでいる。他社の権利も十分に尊重することで,公共の財産として知的財産を尊重するという,グループ全体の決意を表している。

 言うまでもなく,こうした大局的な知的財産活動は企業全体,さらにいえば,グループ全体の活動でなくてはならない。近年,知的財産部門の活動では,他部門との協働やグループ全体の基本動作との連携などに注目が集まっており,われわれも重視している。それは知的財産活動の高度化に加え,企業を巡る経営環境の大きな変化に由来している。

「知的財産・事業・研究開発の『三位一体』は単なる並列であってはならない」
 一般に「戦略」という語彙は,幅広い対象や意味を包含し多様な場面で使える用語あるいは考え方である。しかし,実際に使う際には予め明確な定義を付与していないと,言葉自体が,そしてその言葉を使った議論が,曖昧で抽象的な内容に終始する危険性を含んでいる。ここに,「知的財産戦略」を検討する上での重要な示唆が存在している。

 「知的財産戦略」は,従来から用語あるいは考え方として幅広く使われてきた。ただし,すべての場面で必ずしも明確な定義や固定的な意味を付与されてきた訳ではなく,むしろ漠然とした意味で使われていることや非論理的な意味での使用例も散見される。各企業の企業風土や理念などを反映し,知的財産戦略や知的財産経営の形は多様化することが当然だが,ここで大切な点は個々の戦略や経営には,基軸となるべき一貫した論理や考え方が不可欠だということだ。この際,全社員でコンセンサスを形成し,基本意識を共有しておくことがより望ましい。

 われわれは「戦略」を「個々の要素や業務を,一定の意味や枠組みを通じて体系化したり結び付けたりする実践的な活動」と認識した上で,知的財産戦略を「事業戦略と研究開発戦略を知的財産によって実践的に支援すること」と定義し,知的財産戦略を事業戦略や研究開発戦略と三位一体化を図り,統合することが経営の役割だと位置付けている。換言すれば,事業戦略は「研究開発戦略と知的財産戦略の支援」を目的とし,研究開発戦略は「知的財産戦略と事業戦略の支援」を目的にしなくてはならない。こうした3方向からの支え合い,あるいは融合によって初めて「三位一体」が成立するといえる。あえていえば,知的財産戦略,事業戦略,研究開発戦略が単に並列に存在している状態は,三位一体ではない。

「現場密着型」の部門別業務と本部による統括業務のコンビネーション
 われわれの知的財産活動は,(ア)各ビジネス・グループやユニットにおける研究開発活動や事業活動に即した「現場主義」の知財生産・活用・管理,(イ)グループ全体の知的財産を統括的にマネジメントする法務・知的財産権本部の活動,に大別できる。このほか,グループ企業の富士通テクノリサーチが知財に関する調査業務を担っており,出願前に実施する公知例調査と製品化前に実施するクリアランス調査が主要な役割となっている。

 法務・知的財産権本部は,グループ全体へ法務・知財サービスを提供する,ゼネラル・カウンセル・オフィスに位置付けられる。具体的な業務としては,(a)知的財産権(特許権,商標権,意匠権,著作権)の戦略的な取得・維持・活用,(b)予算など財務的管理を含む知財管理,(c)他社権利の尊重や技術標準化活動の支援などを含む知財生産活動,(d)トレード・シークレットを含む情報資産の管理の徹底,(e)政策提言のための積極的な社外活動,(f)戦略的な人材育成と確保,を遂行する。こうした知財活動の実践と有機的連携を通じて知的財産戦略を進めて,事業戦略と研究開発戦略を支援する。

 知的財産,事業,研究開発の三位一体は文言上,簡潔・明解でごく当然の目的に思われるが,実現には知財に関する専門性のみならず,他の業務や戦略を理解する柔軟性を持ち,自己完結を避けるため常に自己業務を客観視できる平衡感覚を併せ持つことが望ましい。これは,非常にシビアな条件であり,困難な仕事だといえる(図1)。

図1:富士通グループにおける知的財産業務担当部署
組織図
出所:富士通提供の資料より抜粋。

法務・知的財産権本部内に「知的財産戦略室」を2003年に設置
 2003年に法務・知的財産権本部に知的財産戦略室を新たに設置した。同室は,知財に関する社内教育の実施や知財ガバナンス体制の強化,知財情報に関する共通インフラの整備など全社・全グループ・レベルの知財業務と,「知的財産報告書」の作成や分析・評価,IR(投資家向け広報)関連業務,特許ポートフォリオの構築など経営を主題とする業務への対応を主な役割として担っている。加えてグループ全体としての統一的な知的財産戦略の立案や知的財産経営の基本方針の策定などに従事している。

 最近は海外の「パテント・トロール」への対応などリスク管理の側面からも知的財産活動を検討している。  組織構造的には,まず全社横断的な活動が多く,これらの業務では機能上,現場間のコーディネータ的な役割を果たしている。さらに,組織の垂直方向では経営の視点から見た知的財産業務への要望や評価を知的財産戦略室が各部門,各社員へ伝達し,逆に現場から経営への要望をフィードバックする役割を果たしている。

 今後は知的財産と経営に関してこのような形で双方向に情報や意見を媒介し形式知化を進めることで,社内における新たな知的財産の創出,知的財産経営の浸透を目指していく。

亀井正博氏

法務・知的財産権本部知的財産戦略室室長
亀井正博氏

【加藤幹之氏インタビュー】|  ||  ||  ||  |


加藤幹之氏 プロフィール
1977年,東京大学法学部卒業。1985年12月,ミシガン大学ロースクール修士課程修了。
1977年,富士通株式会社入社。1989年8月,ワシントン駐在員事務所に赴任。
2002年6月,帰国後,法務・知的財産権本部長代理(兼)輸出管理本部長代理。
2003年6月,法務・知的財産権本部長。
2004年6月,経営執行役 (兼)法務・知的財産権本部長 (兼)安全保障輸出管理本部長。このほか,ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)理事などを歴任。
現在,日本経済団体連合会知的財産委員会企画部会・部会長を務める。


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