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研究開発型の創薬ベンチャー企業における知的財産経営
アンジェスMG,CIPOの中本浩司氏に聞く(上)

[2006/09/11]

中本浩司氏
アンジェスMGの執行役員でCIPO(最高知的財産責任者)
中本浩司氏
 近年,医薬・バイオ業界におけるベンチャー企業の成長が著しく,斬新な製品や事業の創出を目指した研究開発競争がグローバルに繰り広げられる中,知的財産を活用したオープン・イノベーションやアライアンス活動が盛んに行われている。「創薬事業では,将来有望な技術シーズや知的財産を見抜けるか,そして迅速に導入できるかが事業の成功を左右する」。アンジェスMGの執行役員でCIPO(最高知的財産責任者)の中本浩司氏は,このように指摘する。同社は大学発の研究を基に遺伝子医薬,核酸医薬の研究開発を進めており,創業以来,知的財産を重視した経営を実践している。こうした経営姿勢が2005年のベンチャー企業初となる「知的財産報告書」の発行や,2006年のCIPO制度導入につながってきた。中本氏に,医薬・バイオ業界における知的財産経営の現状,同社の事業における知的財産の位置付け,CIPO制度導入の意義を聞いた。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

イノベーションがもたらした遺伝子医薬品の事業化機会の拡大
 遺伝子治療,遺伝子医薬品とは,文字通り「遺伝子の働きを利用し病気を治療するための医薬品」である。代表例としては,ある遺伝子を患者の体内に入れ,その遺伝子が細胞内で生成するタンパク質の薬理作用によって病気を治療する方法が挙げられる。1990年代以降,研究が大きく進歩し,ADA(アデノシンデアミナーゼ)欠損症,がん,HIV(後天性免疫不全症候群)といった重度の病気に対する治療法として期待が高まってきた。
 一方で近年,遺伝子治療,遺伝子医薬品は大きな転換点を迎えている。治療対象がより広い範囲で想定されるようになり,従来の医薬品では治療効果が低かった慢性疾患,生活習慣病などの分野への応用が見込まれるようになった。加えて,遺伝子医薬を人体内で標的の部位(患部)まで運ぶ「ベクター」の研究開発が進み,より効果的な治療の可能性が高まった。こうしたイノベーション(技術革新)の進展を受け遺伝子治療や遺伝子医薬に対する需要が世界的に高まっており,事業化機会の増大や市場の成長性への期待が高まっている。

製薬・バイオ業界におけるベンチャー企業の事業モデルと知的財産戦略
 当社は遺伝子医薬のグローバル・リーディング・カンパニーへの成長を目指している。その基盤としては,(1)中長期的な事業展望に基づいた医薬品開発の起点となる技術シーズや特許の導入,(2)大学など外部の研究機関や他社との戦略的なアライアンスの構築,が不可欠である。こうした事業局面では特許をはじめとする知的財産が重要な媒介ツールとなる。
 一般に,製薬業界において大手企業は「最上流」の研究開発の初期段階から,「川下」の製品化段階まで,自社で一貫して開発を進め事業化を図る。これに対し,創薬ベンチャー企業は外部由来の基本技術の応用化・事業化を進め,臨床段階から製品化前の,いわば「中流」において活動する場合が多い。ちなみに,ベンチャー企業の事業モデルや知的財産戦略を考える際には,「製薬・バイオ業界」という区分は難しい。先に指摘した通り,創薬ベンチャー企業は外部から導入した基本特許を基にした製品化に主眼を置いており,その知的財産戦略は,新たな「医薬用途特許」や「製剤特許」の取得による補強が中心になる。これに対し,従来型の製薬企業は「物質特許」に基軸を置くことが多い。

独自技術の活用と研究開発を通じ急成長を達成
 当社は遺伝子医薬の研究開発と実用化を目指し,大学における研究成果を基にして1999年に創業した。具体的には,(a)血管の新生を促進し血液の流れを改善するHGF(肝細胞増殖因子)遺伝子治療薬,(b)さまざまな炎症を抑制する核酸医薬「NFκBデコイオリゴヌクレオチド」,の研究開発および事業化に取り組んでいる。
 (a)について,HGFは肝臓の細胞を増やす因子として1984年に発見され,当初は肝臓病の治療薬として研究されていたが,1995年に大阪大学大学院教授の森下竜一氏がHGFの遺伝子を投与して血管を新しく増やす治療法を発見した。この治療法を活用したHGF遺伝子治療薬は,糖尿病などに起因する閉塞性動脈硬化症,バージャー病,狭心症,心筋梗塞などの虚血性疾患に対して高い治療効果が期待できる。また,1回の筋肉内注射で約1カ月間にわたり効果が持続し患者さんへの負担が少ない簡便な治療方法であることも,利点となっている。さらに,ウイルス・ベクターを利用する従来型の遺伝子治療の場合,投与した遺伝子が染色体に組み込まれるリスクが懸念されるが,当社のHGF遺伝子治療薬はウイルス・ベクターを使わないため,安全性が極めて高い。
 (b)について,核酸医薬とは人工核酸を利用した治療薬である。デコイとは元来「おとり」を意味する言葉で,デコイオリゴヌクレオチドとは,体内に投与されると「おとり」として特定の転写因子と結合し,遺伝子の働きを抑制する核酸医薬の一種を指す。「NFκBデコイオリゴヌクレオチド」は森下竜一氏が1995年に発明した医薬であり,炎症の原因となる転写因子であるNFκBを選択的に阻害する。アトピー性皮膚炎や慢性関節リウマチなどに対し,従来用いられているステロイドとは異なる作用機序で治療効果を発揮する。
 以上に加え,「HVJエンベロープ・ベクター」の研究開発を子会社で進めている。これは遺伝子や核酸に加え,タンパク質や低分子化合物など多種多様な成分をその中に封入して標的となる部位に運ぶことができるベクターであり,医薬の運搬だけでなく遺伝子機能解析技術などへの幅広い活用が期待されている。(次回へ続く



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