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連載企画(2)知財経営とCIPO 第3回
バイオ産業における先進的な知的財産経営とCIPOが果たす機能
タカラバイオ 専務取締役兼CIPO 浅田起代蔵氏に聞く(上)
[2006/09/01]

タカラバイオ 専務取締役兼CIPO 浅田起代蔵氏
タカラバイオ 専務取締役兼CIPO
浅田起代蔵氏
 企業におけるCIPO(chief intellectual property officer:最高知的財産責任者)の必要性が高まる中,すでにCIPOを設置し,高度な経営戦略や知財戦略を実現している企業が現れている。そうした企業の1社,タカラバイオの専務取締役,バイオ研究所副所長でCIPOに就任した浅田起代蔵氏と執行役員・知的財産部長の佐野 睦氏にバイオ産業における知財の重要性と同社が進める知財戦略の概要,CIPOの機能と設置の意義を聞いた。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


キノコ・ビジネスから
遺伝子治療に至る最先端のバイオ分野で事業を展開

 当社は,宝酒造(現在の宝ホールディングス)のバイオ事業部門が分社化し,2002年に創立した。遺伝子,DNAに関わる事業を一貫して進めており,(1)遺伝子工学研究分野,(2)医食品バイオ分野,(3)遺伝子医療分野,を主な事業領域としている。(1)では,大学や民間のバイオ・テクノロジー研究に不可欠な遺伝子工学用の研究試薬や理化学機器の製造販売,研究受託サービスなどを行っている。(2)では,1970年にブナシメジの人工栽培に初めて成功して以来,寒天オリゴ糖,昆布フコイダン,明日葉などの健康志向食品やホンシメジなどのキノコを提供している。(3)では,がんやエイズの遺伝子治療や細胞医療といった最先端の医療技術の研究開発を進め,事業化を目指している。中長期的な事業ミッションとして,(1)(2)の事業分野において安定的な収益を確保しつつ,(3)の研究開発に投資して遺伝子医療技術の実用化・事業化を達成していく。
 バイオ産業において知的財産,特に知的財産権が果たす役割は非常に大きい。これまでバイオ分野の基幹技術は米国などで発明されるものが多い。例えば,遺伝子工学における基幹技術の1つでDNAを増幅するポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction:PCR)法に関連する特許権は,世界的な製薬メーカー,F. Hoffmann-La Roche Ltd,米Applied Biosystems社などが保有している。また,遺伝子組み換え技術に関しては,バクテリアを利用した方法に関する米Stanford大学のStanley Cohen氏とHerbert W. Boyer氏の共同研究から生まれた特許権(「コーエン・ボイヤー特許」)が有名である。この特許権はStanford大学の OTL(Office of Technology Licensing)を通じてライセンス供与が実施され,多額の収益を上げたことでも有名である。このほかにも,除草剤への耐性を有する植物用の組み換え技術や,そうした技術から生まれた遺伝子組み換え植物などに関する主要な知財権は欧米の企業が保有している。
 従来,当社は欧米企業が保有する基盤技術をライセンス・インによって導入し,当社の製品やサービスへと発展させて日本を始めとするアジア地域の市場で事業を展開してきた。最近は,最先端分野で独自の基盤技術を構築するべく研究開発活動に積極的に注力している。代表的な成果としては,遺伝子治療や細胞治療に用いるレトロネクチン法(米Indiana大学と共同開発),一定の温度下で遺伝子を増殖するICAN(isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)法の開発に成功し,事業化を進めている。

表1:タカラバイオの基幹技術

レトロネクチン(遺伝子治療,細胞治療)
ICAN法(等温遺伝子増幅法)
RNA干渉酵素(タンパク質生産,遺伝子治療)
食品中の生理活性物質(昆布「フコイダン」,寒天「アガロオリゴ糖」,明日葉「カルコン」,きのこ「テルペン」)
LA-PCR(遺伝子工学分野の基盤技術)
登録特許権数:約900件(2006年4月1日現在)

図1:レトロネクチン法の概要
レトロネクチン法の概要図
出所:タカラバイオ提供の資料による。

グローバルな研究開発活動を加速するために米国企業をM&Aで買収

執行役員・知的財産部長 佐野睦氏
執行役員・知的財産部長
佐野 睦氏
 世界的に発展が著しいバイオ産業界においては,先進企業の発明と知財権がその後の研究開発や事業化の基幹になっており,先進企業は高収益とグローバルな事業展開を達成している。このような基幹技術の創造と権利化がバイオ産業における成功の最大のカギと言える。われわれは知財戦略において2つのミッションを掲げている。
 第1は,知的財産を重視した経営戦略を全社規模で実践し,同時に加速化を図ることである。特に自社で保有する知財権などの活用を念頭に置いている。自社内での製品化や新規の事業開発に留まらず,ライセンス活動を展開してきた結果,超耐熱プロテアーゼの事業化,レトロネクチン法のライセンス・アウトなどにつながった。レトロネクチン法は体外遺伝子治療のスタンダートになりつつあり,2006年7月末の時点で米国など世界各国の36カ所の公的医療施設で採用され,3社の海外民間企業にライセンス・アウトした。
 第2は,事業のグローバル化である。特に研究開発活動を中心としたグローバルな知財戦略の構築と実践が不可欠である。当社は欧州(フランス),米国,韓国,中国に拠点を持っており,2005年には米カリフォルニア州,Mountain ViewのClontech Laboratories, Inc.をM&A(企業買収)で獲得し,タカラバイオ・グループ全体の研究開発センター,情報センターとしての機能を持たせるようにした。
 以上に加えて最近の重点活動としては,従来からの米国,日本,欧州のいわゆる「3極」における特許出願・権利化活動に加え,当社において研究開発拠点あるいは市場としての存在を近年急速に増している中国での活動に力を入れている。(次回へ続く



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