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連載企画(2)知財経営とCIPO 第2回(その三)
知的財産活動に関する企業内の部門間連携を調査研究
東京工業大大学院イノベーションマネジメント研究科助教授 田中義敏氏(中)
[2006/08/04]

東京工業大大学院イノベーションマネジメント研究科助教授 田中義敏氏
東京工業大大学院イノベーションマネジメント研究科助教授
田中義敏氏
 「知的財産立国」政策を通じて日本における知的財産の創造・保護は世界でトップ・レベルになり,今後は活用面でのさらなる前進の必要性が指摘されている。こうした実現には企業において知的財産戦略を経営に密着させ,成長につなげていく知的財産経営が不可欠である。その一方で,従来は経営機能と知財部門が十分に有機的に連動できていなかった状況も存在する。東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科助教授の田中義敏氏はこの課題に対し「知財部門と他部門間の連携」をキーワードに掲げ,アプローチを進めている。企業における知財部門長としての経験も有する同氏に,知財部門の現状と課題を指摘してもらい,知財経営の実践に向けた今後の方向性を聞く。
(まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)

知的財産経営の実践では知財部門と他部門の連携が1つのカギに
 知的財産戦略を有効に機能させて知的財産経営を実践するためには,知財部門と他部門の連携が大きなカギになる。数年来,私はこの問題を研究テーマにしており,企業の実態調査などを進めてきた。
 企業内における知財部門と他部門の連携を扱った研究は,従来の日本にはほとんど無かった。近年,ようやく研究開発部門と知財部門の関係を取り上げた研究が少しずつ増えてきたという段階である。これに対し,米国などでは部門間連携の研究に加え,知財部門以外の部署における知財活動のあり方を論じる研究が現れてきた。こうした研究では,マーケティング部門,エンジニアリング部門,製造部門,財務部門,IT(情報技術)部門,人事部門などにおける知財マネジメントのあり方と方法がテーマとして取り上げられている。あるいは,「社外から知財関連の顧問を招聘してどのように活用するか」,「CEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)のレベルではどのような知財マネジメントが必要か」といったかなり具体的な課題が設定されている。
 こうした研究の1例として,Andy Gibbs氏とBob DeMatteis氏の共著,“Essentials of Patents”を翻訳し,2005年に日本で刊行した(編注:田中・葛和訳『特許の真髄』,社団法人発明協会)。この中で両氏は,「統合された知的財産のマネジメント(integrated intellectual asset management)」という表現を用い,私が本連載の第1回で「ドッキング」という言葉で表現した「知財をビジネス全体の中でどのように企業の成長と強化に役立てていくか」というテーマを論じていた。
 2005年度,日本企業における現状の経営機能と知財部門の関係を定量的に描き出すため,「企業における知的財産部門と他部門との関係に関する調査・研究」を実施した。この研究は特許庁の研究事業として採択された(編注:財団法人知的財産研究所が支援)。具体的な研究内容は,(1)知財戦略について,他部門の業務戦略との関係,(2)知財部門と他部門間の連携状況,(3)知財部門間の役割と新たな可能性,の3つの領域について市場で大きなシェアを維持している企業を対象にしたアンケート調査と,その分析を実施した。

「企業における知的財産部門と他部門との関係に関する調査・研究」の研究体制
 
氏 名
所 属
委員長
田中義敏
東京工業大学大学院
イノベーションマネジメント研究科 助教授
委員
植草健一
株式会社拓人
取締役管理本部長
委員
大谷木國興
シャープ株式会社
通信システム事業本部 通信商品開発センター 副参事
委員
葛和清司
葛和国際特許事務所
所長弁理士
委員
小林 隆
株式会社大和証券グループ本社
法務部知的財産課長
委員
的場成夫
的場特許事務所
所長弁理士
委員
米川 聡
東京工業大学大学院
イノベーションマネジメント研究科 助手
出所:「平成17年度特許庁研究事業 大学における知的財産権研究プロジェクト研究成果報告書」より抜粋

41項目の知財活動と16個の組織機能を類型化して相関性を調査・統計処理
 調査の第1段階では,知財活動と企業内の組織機能を類型化した上で各企業にアンケート調査を実施した。まず,知財および知財権に関する典型的な活動(業務)として41項目をリストアップした。これは,企業で法務・知財部門長を務めた私自身の過去の経験も反映しており,知財権に関する業務だけでなく,広く知財活動として知財部門が着手すべきと思われる業務内容を選んだ(図1)。次に,企業内の組織体制/機能を類型化し,16項目の部門/機能を設定した(図2)。具体的には,役員会などを含む経営層,経営企画,マーケティング,広報,調達,製造,人事,財務,環境,海外事業部などを想定した。そして,企業26社(調査依頼企業59社)に41項目の各知財業務について知財部門と16項目の部門/機能との連携状況を4段階で評価してもらった(図3)。
 第2段階では,企業の回答結果に基づき,全26社の平均値の分散データについて主成分分析を行い,各業務について知財部門と各部門間の連携度を計った。その結果,次のような主な特徴・傾向が判明した。

 第1に,知財部門が何らかの活動を進める際に「他部門の承認を要する形式での連携」に関しては連携の度合いが高いが,知財活動に関する専門的事項については「他部門に説明していない」,「連携を図っていない」との回答が多く,言い換えれば,「知財部門が受動的な立場での連携は存在するが,能動的な立場での連携は少ない」ことを示している。これは,本当の意味での組織間連携とは言い難い。特に,最近の知財経営の議論などで重視される,いわゆる戦略的な業務については,他部門との連携がほとんど成立しておらず,他の業務との比較においても低いレベルに留まっていた。

 第2には,いわゆる知財活動の先進的企業であっても,組織間の連携については改善すべき点が数多く存在する状況である。全26社の中で上位10社のみを対象としたデータを分析すると,事業上インパクトの強い戦略的な業務に関しても他部門との連携度は高く,さらに経営層などの承認を要するような受動的な連携は,これらの企業では見られないことが分かった。むしろ,こうした企業における知財部門では,能動的・積極的な対応を必要とする連携が要求されていることが分かった。しかし,これらは知財権に関連する従来型の知財業務に関する傾向であり,例えば,原材料メーカなど取引先企業の知財権に関する調査活動や技術の標準化に関する新しいタイプの知財業務については,先進10社でも対応がまだ十分ではないことが判明した。

東京工業大大学院イノベーションマネジメント研究科助教授 田中義敏氏 ()()(

図1:知的財産活動の類型化
図1:知的財産活動の類型化
出所:「平成17年度特許庁研究事業 大学における知的財産権研究プロジェクト研究成果報告書」より抜粋

図2:企業における部門/機能の類型化
図2:企業における部門/機能の類型化
出所:「平成17年度特許庁研究事業 大学における知的財産権研究プロジェクト研究成果報告書」より抜粋

図3:連携度の平均値
図3:連携度の平均値
出所:「平成17年度特許庁研究事業 大学における知的財産権研究プロジェクト研究成果報告書」より抜粋


田中義敏氏 プロフィール
東京工業大学理工学研究科原子核工学専攻修士課程修了,工学修士。
特許庁,科学技術庁,UCLA,日本テトラパック株式会社(知的財産権部長,人事・総務・法務統括部長など)を経て,2002年より東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授。2005年4月より同大学イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻助教授。主な著作に,How to approach to upgrade the Value of Intellectual Property Rights! : 特技墾[217]30-37(2001),ベトナム知的財産事情<国家一丸となって進める体制整備と急速な進展, 知財マネジメント研究(2003),中国におけるコピー製品対策の事例紹介と市場獲得への提言, 知財マネジメント研究(2003),ビジネス強化・成長のための知的財産の活用,54巻,4号,日本知的財産協会(2004)など。


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