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連載企画(2)知財経営とCIPO 第2回(その一)
経営の視点から知的財産戦略を構築する意義とは
キヤノン専務取締役・知的財産法務本部長 田中信義氏インタビュー(4)
[2006/07/18]


キヤノン専務取締役・知的財産法務本部長の田中信義氏 先進工業国において「知識経済」への移行が急速に進む現在,企業は「知的財産経営」の実践が不可欠になっている。しかし,現実には多くの企業が「知的財産権だけ/のみのマネジメント」にとどまっており,これらの企業では既存の価値観,商慣行,組織構造などが阻害要因になっている。こうした状況を打破するためには,経営トップが自ら技術・研究開発部門や知財部門に踏み込んで統合的に主導していく体制が必要になっており,「知的財産推進計画2006」には,「CIPO(知財最高責任者)や知財担当役員,あるいは知財経営を担当する企画的な部署を社内に設置することが望ましい」と明示された。日本におけるCIPOの代表的存在であるキヤノン専務取締役・知的財産法務本部長の田中信義氏に,「革新,そして健全なる拡大を(“Innovation & Sound Growth ”)」をスローガンに掲げ新たな発展段階に入った同社の技術開発,事業,知財,経営の考え方から,知的財産経営やCIPOのあるべき姿を探る。
(聞き手は河井貴之=日経BP知財Awareness編集)


知的財産業務は今後どのように変化するか。また,そうした変化に応じて企業ではどのような知的財産人材が必要になると考えるか。


 知的財産重視の時代の到来に伴い企業経営の在り方も大きく変化している。付加価値の源泉は,機械や設備といった有形の資産から,経営戦略の立案力,ブランド力,マーケティング力,ノウハウ,技術力といった無形の資産へ移ってくる。そうした考え方に基づくと企業経営における最大の付加価値とは,経営戦略の立案能力,決断力,それを実現するハンドリング能力やリーダーシップなどといえる。
 こうした変化に対応して,知的財産要員は特許権などを扱う業務だけでなく,知的財産全体のマネジメントをハンドリングすることが求められる。ここでいう知的財産要員は,即「従来の知財部門」を意味していない。知的財産の新しいタイプや課題へ即応することが出来る人材が求められるし,また組織や人材の最適配置を可変的かつ柔軟に進める必要もある。
新しい知財問題への対応として,具体的にはどのような戦略を採用しているのか。


 知的財産の問題に限らず,キヤノンでは新しいタイプのリスクや課題についてはワーキング・グループ(委員会)をそれぞれ設置し,既存の部門や業務を越えた対応を実行している。知的財産に関しては,キヤノン・グループ全体を対象とするブランド戦略に基づいて企業名称や製品名称などを検討するための「商標管理委員会」などを設置している。
 最近特に注力している課題は,営業秘密漏えいや技術流出の防止である。「グローバル製品法務推進委員会」,「海外生産会社機密管理ルール策定委員会」など複数のワーキング・グループがこの領域の問題を扱っており,さらにワーキング・グループ同士が連携して社内制度を整備している。ポイントは,(1)キー・パーツ,キー・デバイスは日本国内で生産する物的管理,(2)規程などの整備や契約に基づく機密保持義務の徹底などによる人的管理,(3)海外の生産拠点に対して電子図面の送信などを必要最小限に抑える徹底した情報管理,である。2004年には,全社で対処方法を共有し標準化を図るために,「営業秘密管理ガイドライン」,「技術流出防止管理ガイドライン」,「中国・アジア生産会社赴任者への機密管理研修」テキストなどをワーキング・グループの主導で策定した。
全社レベルの対応を統一,徹底することは非常に大きな苦労を伴うのではないか。


 確かにその通りだ。しかし,経営の視点から知財戦略を考える場合,グループ全体を対象にした連結ベースあるいはグローバル・ベースで戦略を構築しなくてはならない。実務上のハンドリングは各部門や子会社に任せざるを得ないが,あるレベル以上の問題は本社の知的財産法務本部へのレポーティングを義務付けるなどして,中央集権的に掌握する必要がある。会長や社長を含め経営トップが早期に判断を下すことはリスクの拡大や拡散の予防にもつながる。
グローバルに事業を展開している企業から見て,今後の知財立国政策に期待することは何か。


 現在,経済活動のグローバル化の影響などによって様々な問題が発生しており,キヤノンでも対応に苦慮している。海賊版・模倣品の防止,技術の国際標準化に至る諸問題は規模も大きく,1企業の取り組みには限界がある。これらに対しては,日本の知財立国政策として統一的な行動を起こしていくことが大切だ。知財立国の「第1期」では知財に関連する制度の構築など日本国内の環境が急速に整備された。同様に2006年以降の「第2期」では,世界の動向を視野に入れたグローバルな政策の立案・実現に期待したい。

【田中信義氏インタビュー】|  ||  ||  ||  |


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